テクノロジーが進化するとともにサイバー攻撃も多様化・巧妙化が進んでいます。企業が持つ情報資産を守るためには高度な知識とスキルが求められ、適切なセキュリティ対策が欠かせません。その対策を担う存在として現在注目されているのが、「ホワイトハッカー」です。
この記事では、ホワイトハッカーの概要から需要や仕事内容などについて解説します。
公開日: 2022年7月29日
専門領域:サイバーセキュリティ
佐藤直 Naoshi Sato
大学卒業後、通信会社研究所勤務を経て情報セキュリティ大学院大学に奉職。大学ではインターネット技術や企業ネットワークの設計・運用管理の講義の他、サイバー攻撃、マルウェア解析等の演習を担当。2017年に退職し、同大学名誉教授として、また中央大学研究開発機構の客員研究員(機構教授)としてサイバーセキュリティの教育研究活動を継続中。さらに、警察機関や民間企業の方を対象にしたCTF(Capture The Flag)の実施を支援。博士(工学)。
…続きを読むそもそもハッカーとは?
「ハッカー」という言葉を聞いたことがある方は多いでしょう。ハッカーとは、コンピューターネットワークやコンピュータープログラムに関して深い知見を持ち、技術を使いこなす人物を表す言葉です。近年では不法にプログラムに侵入する人物を指すなど、悪い意味で用いられることも多いですが、本来は破壊行為などをする人物は「クラッカー」と呼ばれ、ハッカーとは異なる意味であることを覚えておきましょう。
同様に「ハッキング」は高度な知識・スキルを用いたコンピューター操作を表すものであり、コンピューターやネットワークなどの破壊行為を指す言葉は「クラッキング」と呼ばれます。どちらの行為も卓越した知識・スキルが必要ですが、わかりやすいように、ハッキングを行う人間は「ホワイトハッカー」、クラッキングを行う人間は「ブラックハッカー」と呼ばれるようになりました。
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ブラックハッカーは、前述のとおりコンピューターの知見を悪用してクラッキングを行い、情報の盗取やシステムの破壊行動などのサイバー攻撃を実施する存在です。対してホワイトハッカーは、ブラックハッカーの手口や攻撃手法を理解し、コンピューターに関する知見を社会のために役立てて情報資産を守る者になります。
この点がブラックハッカーとホワイトハッカーの大きな違いです。
ホワイトハッカーと似たような職種に「セキュリティエンジニア」が挙げられますが、一般的にセキュリティエンジニアはシステム構築におけるセキュリティ部分を担当するエンジニアです。ホワイトハッカーはサイバー攻撃を直接的に対応する職種であり、調査や防御対策などを実施します。
より厳密にいえば、ホワイトハッカーは職種ではありません。あくまでもIT分野における高度な知見を持った人物の敬称であるため、日本では「ホワイトハッカー」というポジションとして求人されていることは少ないといえます。
ホワイトハッカーの需要と仕事内容
サイバー攻撃は年々多様化・巧妙化が進み、企業の情報資産を守るためにホワイトハッカーの需要は高まっています。しかし、ホワイトハッカーとして求人情報が出されることは少なく、「セキュリティエンジニア」や「ネットワークエンジニア」として、「セキュリティ対策の実施」「サイバー攻撃の対応」という仕事内容で募集されていることが多いのが現状です。
ホワイトハッカーの年収
日本ではホワイトハッカーとしてよりも、「セキュリティエンジニア」として求人されていることが多いです。経済産業省が平成29年に公表した「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」を参照すると、セキュリティエンジニアの平均年収は758.2万円であり、一般的なITエンジニアよりも高給であることがわかります。
また、海外に目を向けてみると、Apple社では社内ネットワークのセキュリティ担当者に年収3,000万円を提示しており、その他の企業もホワイトハッカーを含むセキュリティエンジニアの年収相場は700~900万円と高額です。
ホワイトハッカーに向いている人
ホワイトハッカーには高度なコンピューターに関する知見が必要ですが、それ以外にも多くのものが求められます。ホワイトハッカーに向いている人を判断するための基準としては、次のような要素が挙げられるでしょう。
正義感が強い
企業の重要な情報資産や秘密を守る存在であるホワイトハッカーには、しっかりとした倫理観を持ち、信頼の置ける人物である必要があります。正義感が強く、責任を持って業務に従事しなければなりません。
また、高度なコンピューター知識は一種の力です。強い力を持つ人間は、その扱い方に注意する必要があります。悪用すれば巨額の富を得ることもできるかもしれませんが、そのような誘惑に惑わされず、人・社会・会社のために知見を生かすことのできる正義感が強い人が、ホワイトハッカーに向いています。
深い洞察力がある
サイバー攻撃は年々多様化・巧妙化し、日々進化し続けています。情報資産を守るためには、有事の際の対応だけでなく事前に防ぐことも重要です。そのためには、これまでの経験などを生かして事前に対策を取る必要があります。
日頃からサイバー攻撃の傾向や動向を把握し、将来起こり得るリスクに対する対策を取るためには、深い洞察力や想像力が欠かせません。
問題解決能力がある
変化し続けるITの世界では、必ずしも正解が用意されているとは限りません。その場の状況などから最適と思われる対応を取り続ける必要があります。誰かが答えを教えてくれるわけではないため、自分自身で問題を把握して解決する必要があります。
例えば、サイバー攻撃を受けた際には、どこから攻撃されているのか、どのような攻撃なのか、攻撃されている原因がなにか、どのように対処するか、今後同じようなことが起きないようにどのように対策を取るか、などさまざまなことを考えなければなりません。
これらを一気に解決するだけの能力がホワイトハッカーには求められますので、問題解決能力の高さは必要不可欠な要素といえるでしょう。
ホワイトハッカーに必要な知識
ホワイトハッカーに必要な知識としては、次のようなものが挙げられます。
- プログラミングの知識、スキル
- サイバー攻撃に対する知見
- IT関連の法律や法令に関する知識
ホワイトハッカーにとってプログラミングの知識やスキルは必須です。自身でプログラムを作成するだけでなく、作成されたプログラムにおけるセキュリティ上の欠陥などを把握するためにもコードを読み解く力が求められます。
プログラミング言語にもさまざまな種類が存在しますが、OSの開発やWebシステムの開発などで用いられる言語は異なります。そのため、C言語やPython、Ruby、PHP、Javaなどのあらゆるプログラミング言語を扱えるようになっている必要があるでしょう。
また、サイバー攻撃の手法や動向についても知見がなければなりません。どのような攻撃が流行っているのか、どのような仕組みで攻撃されているのかなどを把握しておかなければ対策することが難しいからです。
加えて、IT技術の知識だけでなくIT関連の法律や法令に関する知識も必要です。知っておくべき代表的な法律・法令としては「改正個人情報保護法」「サイバーセキュリティ基本法」「電子署名及び認証業務に関する法律」などが挙げられるでしょう。
これらの知識はコンプライアンスに準拠したシステムの実装に欠かせない知識です。
ホワイトハッカーになるための資格とは
ホワイトハッカーになるために必須となる資格はありません。しかし、ホワイトハッカーを目指す上で取得しておくと有利になる資格は存在します。その最たるものが「Certified Ethical Hacker(CEH)」です。
CEHは日本では「認定ホワイトハッカー」の名称で知られており、国際的な認定資格の一つです。CEHは特に海外で有名な資格であり、米国防省では情報システムにアクセスするスタッフはCEHの取得が必須とされています。
Udemyでは、CEHの取得に役立つ講義をオンラインで受けることができます。興味がある方は、ぜひご覧ください。
日本国内の資格でいえば、情報処理推進機構(IPA)が主催する情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験も見逃せません。これらの試験は国家試験であり、ネットワークスペシャリストやデータベーススペシャリストなどの試験には高度な知識・技能が求められます。
特にホワイトハッカーとしてセキュリティ分野のスペシャリストを認定する「情報処理安全確保支援士試験」は取得する価値があります。合格後に申請すると、サイバーセキュリティを推進する人材として「情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)」として、IT系資格のなかでも数少ない国家資格の士業を名乗ることができます。
ホワイトハッカーになるのに資格は必須ではありませんが、自身が持つ知見・スキルを明確化する目的でも資格を取得することには大きな価値があります。
ホワイトハッカーはコンピューターに関連する卓越した知見を持ち、社会の役に立てる存在です。年々多様化・巧妙化するサイバー攻撃に対して、適切な対応を取り続けるためにもホワイトハッカーの存在は重要視されています。
ホワイトハッカーにはさまざまな知識が求められ、容易になれるものではありませんが非常に需要が高く、一般的なエンジニアに比べて給与も高い傾向にあります。必須となる資格もありませんが、自身の知見やスキルを明確化するためにも、資格の取得を検討してみてはいかがでしょうか。
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