元一般職を中心としたチーム学習でDXのスキルを身につけ1か月でアプリを開発。

株式会社デンソー

株式会社デンソーは、2025年中期方針の5つの柱の1つに「正しい志と正しい仕事:世界一・世界初の実現を目指し、デジタルで仕事の在り方を変革」を掲げて、デジタル人材育成に力を入れています。その施策の1つとして、Udemy Business の講座を活用した「デンソーDX基礎コース」を開講して、DXに関するチーム学習を促進し、職場でのDX実践を後押ししています。そこで今回は、主体的なチーム学習を行い、優れたDX実践につなげた3チームを取材しました。第1回は、安全衛生環境部企画室の皆さまにお話を聞きました。

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一般職から総合職への転換を機に、DXでの業務改善に挑戦

安全衛生環境部は、同社の安全衛生と環境マネジメントを担う部署です。新美いづみさんは、同社の阿久比製作所で実務職(一般職)として勤務していましたが、全社方針として実務職を廃止し、総合職へ統合する動きに合わせて、2024年度から総合職としてのキャリアを歩み始めました。

新美さんは次のように当時を振り返ります。

「実務職から総合職に統合されるにあたり、会社から、事務中心の業務から一段階上の役割を担うように指示がありました。私自身、変わらなければいけないと思いました」

そうした折、新美さんは、人事部から届いた「『デンソーDX基礎コース』受講チーム募集」の案内に目をとめました。

「以前から事務業務の効率化の必要性を強く感じていたため、社内の講座やUdemy Businessを活用してMicrosoft Power BIやPower Appsを学んでいました。Udemy Businessは、必要なスキルを自分の好きな時間に学習できる有益なツールだと感じ、周囲にUdemy Businessを活用したいというメンバーがいれば声をかけ、個人的に学習を支援していました。そんな中、会社でUdemy Businessを活用したチーム学習を推進していると知り、ぜひ挑戦してみたいと思い、部のDX担当であった中野さんに相談しました」

新美さんから相談を受けた中野辰大さんも、部全体でどのようにデジタルを活用した業務改善を進めていくかという部分に強く課題を感じていました。新美さんの相談を受け部内でチーム学習の参加者を募ったところ、自発的に15名が集まりました。その中には、新美さんのように長年実務職として活躍してきた方が多くいました。

「元実務職の方は、データ管理等の細かな実務業務経験がある方が多く、『もっと業務改善できるはず』というアイディアや思いを持っていたものの、日々の業務が忙しい中で、デジタルに関する自信やスキルが足りず、一人だけでは実践するまでには至れなかったのだと感じました。そこで、部内で『業務デザインワーキング』を立ち上げ、通常業務と並行して『デンソーDX基礎コース』を受講し、スキルを1から身につけながらチームとしてDXを活用した業務改善に挑戦することにしました」

やりたい改革はあるけど、一人では難しい。チームで学び、不安を打開

新美さんも以前から学びを活かしてアプリ開発やMicrosoft Power BI活用に取り組んでいるものの、阿久比製作所内のみでの改善に留まっており、全社的な視点や他の拠点でも、もっと学びを活かせるのではというもやもやした思いがありました。そうした中で支えとなったのが、Udemy Businessを活用した「デンソーDX基礎コース」(全10講座)でした。新美さんが特にDX実践に有効だと感じたのは、「業務変革DX実践(入門)」や「デザイン思考(入門)」だったと話します。

「チーム学習を始める以前は、『デジタルスキルを身につけること』が必要だと思っていましたが、DX基礎コースの受講を通じて、『業務をデザインする力を身につけること』の重要性に気づきました。最初にどのような改善をしたいのかイメージして、業務フローをデザインし、そこからやるべきことを考えていきました」

安全衛生環境部 企画室 新美いづみさん

チームメンバーが多忙な業務の合間に動画を視聴しながら、DXによる業務改善を前向きに学べたのは、チーム学習で取り組んだことが大きかったと新美さんは言います。

「メンバーには、私と同じようにミドル層が多く、『DXを学んでも身につかないのではないか』『業務に生かせるか自信が持てない』といった人も少なくありませんでした。そこで、Microsoft Teamsのチャット機能を活用し、学習に関する情報交換を積極的に行いました励まし合いながら勉強できたことが、成果につながっていると思います。」

また、学習と並行して月1回のミーティングにて、「業務における悩みやアイディアの種」を共有する場を設け、その種に対しメンバー全員で業務フローの整理やPower BIの開発等、学習の内容を実践することで、早い段階から学びを実務につなげることに意識を向けたと、中野さんは話します。

「学ぶことやDXを目的とせず、メンバーが抱える実際の課題のうち、早期に改善可能なものから実践経験を得ることで、学びを実務に直結させたいと考えました。そうすることで、メンバーに『皆で協力すれば自分たちの手で業務改善ができる』という自信を持ってほしいと思いました。新美さんはその中で、自身の案件推進だけでなく、テクニカルな部分のサポートを担って頂いており、新美さんに憧れているというメンバーも多数いる存在です。」

1か月でアプリをリリース! DX基礎コース受講で、学びを実践する力を身につける

安全衛生環境部は、社内の安全衛生および環境保全に関わる管理を行う部門のため、膨大な量の管理帳票を抱えていました。数年前から帳票自体はデジタル化されていましたが、仕事のプロセスは紙時代のままで、あまり変えられていなかったと、新美さんは言います。

「個々の部署で班長が各種帳票や台帳をその都度修正・更新しており、それを全体で一括管理できるようなシステムがありませんでした。そこで、私たちはMicrosoft Power BIやPower Appsを活用して、多くの人が管理・更新・閲覧しやすくするアプリーケーションを開発したいと考えました」

新美さんらは、メンバーと力を合わせDX基礎コースで学習した業務をデザインする学びを生かし、メンバーから出されたアイディアのうち、素早く会社に貢献できる案件として「管理者リスト」のアプリを開発しました。

このアプリの実現は、多くの社員から高い評価を得たと、中野さんは話します。

「国内グループ会社向けに、安全責任者や環境責任者など安全衛生と環境に関する30種程ある管理者を記録するリストがありましたが、組織情報等のメンテ作業が大変で、使い勝手も改善の余地が大きくありました。Power BIやPower Appsを活用してアプリ化することで、各グループ会社の管理者がリアルタイムで更新ができるようにしました。その結果、特定の種類の管理者のみにメールを送信するといった作業も容易になりました。すぐできる案件として開発しましたが、グループ会社47社、ユーザー500名ほどに対し、管理者変更工数80%削減を実現できました。結果、「開発してくれてよかった」と感謝の声が多く届いています。これを受けて、推進したメンバーは、より広い目線で業務改革できるのではと、室外のメンバーを巻き込みながら更なるレベルアップの検討を開始しています。」

図1 安全衛生環境部でのDXの一例(管理者リスト)

そのほかにも、社内の他チームと連携してユーザー数が3000名を超える化学物質管理支援アプリを開発し、製造現場での化学物質法律対応の75%の工数削減を実現。現在は「法定設備届出支援アプリ」や「安全災害レビュー記録アプリ」などを構築中で、これらは、推進者やアプリは分かれていても、共通のデータベースを使用していたり、一部機能をコピーしていたりと、個別の取組みにはなっていないことが特徴です(図2)。また、活動を聞いた若手社員がワーキンググループに「こんなアプリを作りたい」と持ち込んでくれた企画もあり、メンバーも少しずつ増えていると言います。

図2 チーム学習の全体設計と成果

市民開発を組織全体の改革として位置づける

安全衛生環境部 企画室 中野辰大さん

業務デザインワーキングのメンバーから数多くの市民開発が実現し始めた理由について、中野さんは3つのポイントを挙げます。

「1つ目が、共通言語としてメンバーにDX基礎コースの知識があり、学びたいと思えば学びあえる環境があることです。ここに組織として2つの工夫を加えました。1つは、『学び』や『チャレンジ』という言葉を言い訳にせず、メンバーから寄せられた種を『本当に現場の役に立つかどうか』『投資に見合うかどうか』といった観点で冷静に評価すること自体をチーム活動にしたことです。もう1つは、一過性のプロジェクトではなく、組織として持続的に運用できる基盤を整えたことです。個人任せの開発では成果も改善範囲も個人に留まり、組織全体としての広がりが得られず、運用面においては属人化という市民開発の悪い部分が出てしまう場合もあります。だからこそ、メンバーから困り事やアイディアとして寄せられた種を、チームの多様なメンバーで、学習した内容を実践しながら企画として育て、組織としてはそのプロセス自体を組織全体の改革として位置づけ、実装に向けては保守や運用を含めて改めて必要なリソースを確保し、組織的に回せる体制を構築することが重要だと考えています。」

24年度の業務デザインワーキングにおいて、学びを活かし大きな成果を挙げたことが部内でも評価され、25年度から企画室で働きはじめた新美さん。企画室では、「安全衛生」と「環境」の2つの軸を隔たりなく、全社の視点で現場目線でのデジタル化を含めた業務の効率化に取り組んでいます。今後の目標を次のように語ります。

「やりたいことがあっても、何をどう調べ、誰に何を聞けば答えにたどり着けるのかが分からず、戸惑う人は多いと思います。私自身もそうでしたが、この経験を通じて、やりたいことの全体像を描き、1つずつ学びながら解決していく力が鍵となると感じました。DXによる業務改善の経験がなくても、チームで学びに取り組むことで『自分でも調べてやってみよう』と前向きに学ぶ気持ちになることが大切です。今後も企画室では、DXによる業務改善に挑戦したい人たちを支援し、改革の輪を広げ、全社の安全衛生と環境に貢献していきたいと思います。」

企業名:株式会社デンソー
業種:自動車・自動車部品
従業員数:単体43,781名 連結158,056名(2025年3月末時点)
自動車用システム製品(パワートレイン機器、熱機器、エレクトロニクス、モータ、情報安全)、生活関連機器製品、産業機器製品等の開発・製造・販売。