デザインシンキングの考え方・プロセス・事例をわかりやすく解説

デザインシンキングの考え方・プロセス・事例をわかりやすく解説

近年、日本でも注目を集めはじめた「デザインシンキング(デザイン思考)」。ユーザーに寄り添うことでイノベーションを生むという考え方は、さまざまな製品のコモディティ化(一般化、大衆化)が進む現代において、ものづくりの重要なポイントになっています。

デザインシンキングは、それほど複雑な考え方ではありません。プロセスとポイントをしっかりと理解すれば、誰にでも実践できます。そこで今回は、デザインシンキングの概要や事例を解説します。
 

デザインシンキングとは何か?ユーザーと向き合うことで課題を解決する方法

デザインシンキング(デザイン思考)とは、問題を解決に導くために用いられるマインドセットのひとつです。デザインで使われる考え方を、さまざまなビジネスの場面に応用する手法のことです。

なお、ここでいう“デザイン”とは、グラフィックデザインなどのように、外見を整えることのみを指すのではありません。 デザインには、美術とは違って「課題を解決する」というニュアンスが含まれます。デザインシンキングの考え方は、“設計”や“企画”に近いものです。

デザイン思考とは

デザインシンキングは、ユーザーの潜在ニーズを理解し、イノベーティブな商品を開発することに役立ちます。また、短期間で試行錯誤を繰り返すことで、発売後の失敗を回避することができ、長期的なコスト低減にもつながります。

 

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デザインシンキングが注目される理由とは?

デザインシンキングは、AppleGoogleなど、世界の名だたる企業が採り入れている思考方法です。では、なぜここまで注目されるようになったのでしょうか?
その要因のひとつが、時代の変化にあります。

現代において、電化製品やアプリなど、さまざまなものはコモディティ化しています。たとえば、戦後、冷蔵庫や洗濯機の登場は、人々の生活に大きなイノベーションを起こしました。しかし、現在では各社が新製品を次々とリリースするものの、使い方や機能にそこまで大きな変化は見られません。

こうした状況においては、“全く新しい発明”よりも、“使いやすさなどの付加価値”が差別化のポイントとなります。

デザインシンキングは、新発明よりも改善にマッチしやすいという特性があります。デザインシンキングで商品を捉えなおし、他社製品との差別化をすることがめざされています

 

デザインシンキングのプロセスを具体例で解説

ここからは、実際にデザインシンキングのプロセスを解説していきます。なお、デザインシンキングの定義は広く、その捉え方やプロセスは人によって異なります。

そこで、以下では、スタンフォード大学デザイン研究所(d.school)のハッソ・プラットナー教授が提唱した「デザイン思考の5段階」(デザイン思考のプロセス)ものです。

デザイン思考の5段階

デザインシンキングのプロセス①ターゲットを観察し、共感する

デザインシンキングの第一プロセスは「共感 (Empathize)」です。ユーザーの目線に立ちながら物事を考え、理解し、その心理に共感することで、彼らが抱えるニーズを見つけることができます。

具体的には、製品をユーザーに使ってもらうユーザーテストや、仮説検証型のユーザーインタビューなどが施策として挙げられます。

また、対象をエクストリームユーザー(極端なユーザー)に絞ったインタビューやテストの実施も推奨されます。たとえば、スポーツ用品をプロの選手と全くの初心者という両者に使ってもらうことで、その他の大部分のユーザーには目立たない不満点をあぶり出せるといった効果があります。

なお、テストやインタビューの際には、事前に決めた調査項目だけにとらわれず、インタビューや観察のなかで登場したキーワードや疑問点を掘り下げていくことも大切です。

デザインシンキングのプロセス②本質的な課題を発見・定義する

次のプロセスは「定義 (Define)」です。ここでは、「共感 (Empathize)」のプロセスで見つかったニーズや問題をさらに掘り下げ、潜在的な不満や課題を明確化します

たとえば、ユーザーインタビューで「もっとカラーバリエーションの多いバッグがほしい」という声が挙がっていたとしましょう。

この不満の裏には「自分らしさを演出するバッグを持ちたい」「人と被りたくない」という根本的なニーズが隠れていると考えられます。その場合は、単にカラーバリエーションを増やすのではなく、パーツをオーダーできたり、組み合わせたりできるバッグの開発をすることで、課題を解決できるかもしれません。

このように、ユーザーの声をそのまま受け取るのではなく、その内容から根本的な不満や課題を発見し、定義していくことがデザインシンキングでは重要です。

デザインシンキングのプロセス

デザインシンキングのプロセス③課題へアプローチするアイデアを出す

次のプロセスは「創造 (Ideate)」。ユーザーの抱える課題へアプローチできるアイデアを多角的に考えていく段階です

アイデア出しの際にはブレインストリーミングやブレインライティングといった手法がマッチします。実現の可能性や固定概念にとらわれず、自由に意見交換やアイデア出しを行いましょう。また、集まったアイデアをまとめるのには、マインドマップという手法も役立ちます。

ある程度のアイデアが出揃ったら、プロセス②「定義 (Define)」で確定した課題を見直しながら、選定を行います。

デザインシンキングのプロセス④プロトタイプを作成する

アイデアがまとまったら、次に「試作 (Prototype)」を行います。ここはプロトタイプ(試作品や原型)を作成する段階です。

具現化されたプロトタイプがあれば、チームメンバー内でイメージが共有でき、認識のズレをすり合わせることができます。

また、試作をもとに、機能性や実現性についての話し合いを行うこともできます。そして何より、具現化したアイデアが定義された問題の解決につながるかを、トライアンドエラーを繰り返しながら検証することが大切です。

なお、プロトタイプは、はじめに紙で簡単な製品を作る、デザインのみを模型として作るなど、段階にそって進めていきます。アプリやソフトウェア、Webサイトなどの制作であれば、InVisionAdobe XDといったツールを用いるのもおすすめです。

デザインシンキングのプロセス⑤検証(テスト)し、フィードバックを得る

最後のプロセスは「検証(Test)」です。実際のユーザーに試作品を利用してもらい、フィードバックをもらったり、使用中の様子を観察したりします。そして、その情報を基に、課題解決や目的達成がなされているかを検証します。

デザインシンキングの事例

たとえば、睡眠時間を記録できるスマートウォッチの開発に着手しているとしましょう。

この際、確認するべき点は、実際に睡眠時間が記録され、生活習慣の改善に役立てられているかということです。加えて「使い勝手はどうか?」「機能を一目で理解して活用できるか?」「片手で着脱ができているか?」など、ユーザビリティについても検証を行います。

もしも検証結果で新たな課題が発見できた場合は、再度プロセス①に戻り、試行錯誤を繰り返します。

 

デザインシンキングでの製品開発事例

最後に、デザインシンキングを通して生まれた製品の開発事例を紹介します。

瞬足

アキレス株式会社が開発した「瞬足」は、“子ども靴の陸王”と称されるように、子どもが速く走れるスニーカーを目指して開発された運動靴です。

開発時には、小学校の運動会にスタッフが出向き、実際に子どもたちがどう走るか、どのように靴を履くのかを観察。その結果、運動場のトラックが左回りであることと、コーナーで転ぶ子どもが多いことに気付きます。

トラックを走る子供

の解決策として左右非対象のソールを開発したところ、ヒットにつながりました。ユーザーの観察が画期的な製品を生み出した好例です。

ブラウンの電動歯ブラシ

P&Gが手がける家電ブランド「ブラウン」の電動歯ブラシは、技術中心から、ユーザー中心のプロダクトに生まれ変わった例です。

ユーザーは、「専用充電器が不便」「替えブラシの注文を忘れがち」という、シンプルながらそれまでの電動歯ブラシにはありがちな不満の解消を求めていました。

そこで、USB充電を可能にしたり、本体とアプリを連動して交換用ブラシのオーダーを自動リマインドしたりといった機能を追加しました。ユーザーの不満に寄り添ったことで、よりよい製品開発につながった例と言えます。

Wii

任天堂が開発した家庭用ゲーム機「Wii」のコンセプトは、自社の社員の家庭を観察したことから生まれました。

そこで、子どもがゲームに夢中になることで子どもと親との関係が悪化していたり、子どものリビングでの滞在時間が短くなっていたりすることが分かったのです。また、家族で鍋を囲んでいる家庭は親密度が高いということも分かりました。

これらの結果を踏まえて、「家族で楽しめて、家族の関係がよくなるゲーム機」というコンセプトが生まれます。コンセプトを基に、さらにデザインシンキングのプロセスが繰り返されました。実際に、コントローラーは1,000回以上のプロトタイピングがなされたと言います。

 

この記事では、デザインシンキングのプロセスや事例を解説しました。

紹介したプロセスは一例であり、実際には製品や状況に応じてカスタマイズが必要です。ぜひ、この記事を参考に、デザインシンキングを採り入れてみてください。