「起業するうえで経営状況の把握は絶対だと言うけれど、具体的に何を知ればいい?」
「自社が現状どれだけの利益を生み出し、今度どのように成長していくかを知りたい」
「投資をするうえで判断基準となるような分かりやすい数値というのはないか?」
経営者や社員、投資家にとって、企業の経営状態を知ることは非常に大切です。しかし、具体的にどんな基準で判断をすればいいのか分からないという方も多いでしょう。そこで役立つのが財務分析です。
財務分析は経営分析の一要素であり、定量的な観点から企業の財務における評価を知れる分析方法のひとつ。難しそうに感じるかも知れませんが、各指標の計算式はシンプルなので、算出のみであればハードルは高くありません。
会社が健全な経営を行えているかをチェックするためにも、ぜひこの機会に大枠を理解しておきましょう。
財務分析の前に…財務諸表について確認・理解しよう!
分析を行うためにはデータが必要です。これは財務分析でも同じこと。そこで必要になるのが財務諸表です。なお、財務分析は「財務諸表分析」とも呼ばれているように、財務諸表を使った分析です。
以下では、財務諸表に含まれる書類の種類と概要について、それぞれ簡単にまとめておきます。
財務三表 | 賃借対照表(B/S) | 決算日時点における企業の財政状態を示す |
損益計算書(P/L) | 年間における企業の経営成績 | |
キャッシュフロー計算書(C/F) | 年間における企業でのお金(現金、もしくは同等物)の流れ | |
営業報告書 | 当期における企業の営業状況と今後の見通し | |
利益処分計算書 | 株主総会にて決議した利益処分内容 | |
附属明細書 | 賃借対照表と損益計算書における重要項目明細 |
なお、上記のなかでもっとも重要なのは、賃借対照表と損益計算書、キャッシュフロー計算書からなる「財務三表」です。財務分析の際にも参照するのはこの3つが基本となります。
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続いて、財務分析の目的や種類について紹介します。
財務諸表は、ステークホルダーが誰なのかによって役割が異なります。これは財務分析も同様であり、経営者や管理者、従業員、労働組合向けに行うものを「内部分析」、金融機関や投資家、株主、国・自治体、その他メディアや専門家に向けて行うものを「外部分析」と呼びます。
以下で簡単に、ステークホルダーの種類と財務分析の目的を挙げます。
内部分析
経営者 | 経営状態のチェックと意志決定 |
従業員 | 経営状態が健全かどうかのチェック |
労働組合 | 経営改善・賃金交渉の材料 |
外部分析
金融機関 | 融資審査の判断や、信用状況チェック |
投資家・株主 | 投資の際の判断材料や業績判定 |
取引先 | 信用状況や債権回収に関わる判断材料 |
国・自治体 | 経済情勢の把握や反映、適正な税金徴収 |
内部分析が主に経営成績向上を目指して用いられるのに対し、外部分析は企業の財政状況や経営成績の把握と将来的な業績展開を予想するのに用いられます。
なお、一般的に財務分析というと後者を目的にするケースが多いです。
財務分析における比較方法
財務分析を行う際には、比較項目の設定が求められます。具体的には、年次・期間・同業他社比較があり、それぞれに評価のポイントが異なります。
以下にそれぞれの比較項目とその評価ポイントをまとめておきますので、確認して下さい。
年次比較 | 資産・資本構成、売上高利益率、資産回転率、ROA、PER等の評価 |
期間比較 | 成長性や事業活動の推移、課題の改善度合いなどの評価 |
同業他社比較 | 業界標準と比較した場合の対象企業の優位点や課題点の推移 |
財務分析における重要な指標とは?
前項のように、財務分析の目的は利害関係者が異なりますが、いずれの場合も見るべき指標はほぼ共通しています。それが収益性・安全性・生産性・成長性の4つです。それぞれの指標について解説していきましょう。
収益性分析
営利団体である企業にとって、収益を上げられているかどうかはもっとも重要です。そのため、企業の“稼ぐ力”を評価するのに用いられるのが収益性分析です。
収益性分析には、「売上高利益率」「売上高費用比較」「資本利益率」などが挙げられます。
■売上高利益率
利益には「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「当期利益」という種類が存在します。そして、売上高における各利益の割合を示したものが利益率です。以下で、それぞれの計算式と、数値が表す指標について解説します。
指標 | 計算式 | 概要 |
売上総利益率 | =売上総利益÷売上高 | いわゆる「粗利益」を示す指標。数値が高いほど商品やサービスに付加価値があると評価できる。 |
売上高営業利益率 | =営業利益÷売上高 | 商品・サービス力だけでなく、営業力やブランド力など、本業における企業自体の総合力が測れる。 |
売上高経常利益率 | =高経常利益÷売上高 | 本業に加え、資金調達や資産運用などの財務活動を加味した企業の収益性を示す指標。 |
売上高当期利益率 | =当期利益÷売上高 | 最終的な企業の利益。株主配当の原資であり、投資家にとって特に関心の高い指標。 |
■売上高費用比較
売上高における損益計算書上の費用項目の割合で、数値が小さいほど収益性が高いということが分かります。
指標 | 計算式 | 概要 |
売上高原価率 | =売上原価÷売上高 | 材料費、労務費、減価償却費で構成される売上原価の売上高における割合。一般的に、改善の余地は少ない。 |
売上高販管費比率 | =販管費÷売上高 | 販売費と管理費の売上高における比率。原価率に比べて改善の余地が大きく、売上高費用比較において注目すべき指標。 |
売上高金融費用比率 | =金融費用÷売上高 | 支払利息や割引料、社債利息といった金融費用の売上高における比率で、一般的に低水準となり改善も難しい。 |
■資本利益率
当期純利益における資本の割合のことで、いかに資本や投資額を活用して利益を上げているかを測る指標です。
指標 | 計算式 | 概要 |
総資産利益率(ROA) | =経常利益÷総資産 | いかに効率的な経営ができているかの指標。収益性と効率性を同時に表すときにも用いられる。 |
自己資本利益率(ROE) | =経常利益÷自己資本 | 総資産利益率同様、数値が高いほど効率的な経営ができていることを表すが、借入金との兼ね合いもあるためあくまでも材料のひとつ。 |
安全性分析
安全性分析は、企業の倒産リスク評価に用いられる分析のひとつです。これは債務にかかわる支払能力の分析とも言い換えることができ、短期と長期の2種類に分けられます。
短期支払能力
指標 | 計算式 | 概要 |
当座比率 | =当座資産÷流動負債 | 現金預金、売掛金、受取手形、有価証券などの資産を含んだ、短期支払能力を示す指標。 |
流動比率 | =流動資産÷流動負債 | 短期で期限が訪れる流動負債に充てられる流動資産の保有率。以前までは融資審査の際に目安として用いられてきた。 |
長期支払能力
指標 | 計算式 | 概要 |
自己資本比率 | =自己資本÷総資本 | 内外を含めた企業経営の安全性を示す指標。銀行の安全性評価にも用いられており、信頼性が高い。 |
固定比率 | =固定資産÷自己資本 | 株主・自己資金を用いて、長期にわたり運用する設備投資といった資産をどれだけカバーできるかを示す指標。 |
生産性分析
生産性分析は、企業が経営資源をどのように活用し、付加価値を生み出したかを測る分析です。なお、この場合の付加価値を生み出す際に使われる経営資源はヒト・カネ・モノとされており、ここにノウハウが加わるケースもあります。
以下では人を対象にした分析方法をご紹介します。
指標 | 計算式 | 概要 |
労働生産性 | =付加価値÷従業員数 | 労働力に対しての生産性を図る指標。数値が高いほど、経営資源を有効活用できていることが分かる。 |
一人当たり売上高 | =売上高÷従業員数 | 企業における生産効率の指標であると同時に、会社の競争力や企業努力の結果を把握するのにも使われる。なお、業種による差が大きいのが特徴。 |
一人当たり人件費 | =人件費÷従業員数 | 従業員一人あたりに人件費がどれだけかかっているのかを把握するための指標。過去実績や同業他社と比較することが多い。 |
成長性分析
成長性分析とは、時系列順にデータを並べ、そのうえで企業の成長や将来性について推し量る分析です。指標としては、売上高や総資本、従業員数の増加率が挙げられ、それぞれ前年度と比較した比率を求めます。
種類 | 計算式 | 概要 |
売上高増加率 | =(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高 | 量的成長を知るうえで代表的な指標。市場やシェアの拡大、付加価値の高い商品の販売などがプラス要因として考えられる。 |
総資本増加率 | =(当期総資本-前期総資本)÷前期総資本 | 総資本がどれだけ増えたかを示す指標。ただし、負債の増加でもプラスになるため、他の指標との併用が必要となる。 |
従業員増加率 | =(当期従業員数-前期従業員数)÷前期従業員数 | 売上高と従業員の増減を比較し成長性を確認する指標。ただし、設備導入などの影響も考えられるため、他の指標との併用が必要。 |
繰り返しになりますが、財務分析においては、ここまで紹介した収益性・安全性・生産性・成長性の4つの観点から企業の実態を分析することが重要となります。
今取得すべき“財務分析”に関連した資格を紹介!
このように、財務分析にはさまざまな指標があり、それぞれが複合的に組み合わさることで企業の全体像把握につながります。数値算出自体は簡単ですが、より専門的な分析を行いたいのであれば、以下のような資格に関わる勉強がおすすめです。
ビジネス会計検定
財務諸表を基に、記載された情報の意味を読み取って企業の経営状態を把握する力を試される検定。今回ご紹介した財務分析を学ぶのに適した学習内容となっており、経営者やこれから起業される方におすすめです。
日商簿記
ビジネス会計検定が財務諸表を読み解く力を試されるのに対し、簿記は実際に財務諸表を作る力が求められます。経理に就かれる予定の方や、まずは少人数から起業をスタートするような方におすすめです。
公認会計士
財務諸表監査など、より専門的な内容に踏み込んでいきたい方には公認会計士資格もおすすめです。難易度は非常に高いものの、資格取得に向けた学習のなかでは会計にかかわる深い知識が得られるでしょう。
もちろん取得できれば、実務においても今後のキャリアにおいても強い武器となってくれます。
今回は財務分析という大きなくくりについて解説を行いました。各指標を含め、概要についてご理解いただけましたか?
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会社経営や会計に関わってはいるものの、なかなか財務について把握しきれていない……という方は、ぜひご活用し、ビジネスに役立ててください。
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