本記事では、専門分野に特化した人工知能「エキスパートシステム」について解説します。
問題点や実用例も含めてご紹介することで、初心者でも理解できるように解説していますので、ぜひ最後まで読んでエキスパートシステムとは何かを理解してください。
公開日: 2017年10月13日
専門領域:人工知能(AI) / 生成AI / ディープラーニング / 機械学習
我妻 幸長 Yukinaga Azuma
「ヒトとAIの共生」がミッションの会社、SAI-Lab株式会社の代表取締役。AIの教育/研究/アート。東北大学大学院理学研究科、物理学専攻修了。博士(理学)。法政大学デザイン工学部兼任講師。オンライン教育プラットフォームUdemyで、十数万人にAIを教える人気講師。複数の有名企業でAI技術を指導。「AGI福岡」「自由研究室 AIRS-Lab」を主宰。著書に、「はじめてのディープラーニング」「はじめてのディープラーニング2」(SBクリエイティブ)、「Pythonで動かして学ぶ!あたらしい数学の教科書」「あたらしい脳科学と人工知能の教科書」「Google Colaboratoryで学ぶ! あたらしい人工知能技術の教科書」「PyTorchで作る!深層学習モデル・AI アプリ開発入門」「BERT実践入門」「生成AIプロンプトエンジニアリング入門」(翔泳社)。共著に「No.1スクール講師陣による 世界一受けたいiPhoneアプリ開発の授業」(技術評論社)。
…続きを読むエキスパートシステムとは?
エキスパートシステムとは、専門知識のない素人あるいは初心者でも専門家と同じレベルの問題解決が可能となるよう、その領域の専門知識をもとに動作するコンピュータシステムのことです。システムは専門家のかわりに特定の分野に特化した知識をもとに推論をおこない、専門家のようにアドバイスや診断をおこないます。
エキスパートシステムは、専門家が答を導く手順を真似たものであり、知識と問題解決処理とを分離独立させた、通常のプログラムとは異なる独特の構造をしています。具体的には、「推論エンジン」と「知識ベース」から成り立っています。
問題の解決・処理を担う頭脳にあたる推論エンジンは、専門家の知識(事実や規則など)を収集、その知識を知識ベースに蓄積するとともに、知識ベースの知識をもとに推論し、結論を導き出す役割を担っています。知識ベースの情報は、「もし〇〇ならば、△△。」という形式で蓄積されます。
エキスパートシステムの歴史
世界初のエキスパートシステムは1965年に開発され、1972年には細菌感染診断をするエキスパートシステムが開発されました。このシステムは、専門医には匹敵できなくともそれなりの正答率を出した医学分野での成功例でしたが、システムの誤診による責任の所在など、明確にしなければならない多くのことが壁となり、実用には至りませんでした。
もっとも1970年代の冬の時代(第1次)にも技術そのものは進展しており、1980年代には、エドワード・ファイゲンバウム(Edward A. Feigenbaum)の提唱した知識工学をベースに、多くの大企業がエキスパートシステムを業務に導入するなど、エキスパートシステムは実用的ツールとして広く商用利用されるようになりました。
これが第2次AIブームです。多くの大学ではAI関連コースが開設され、日本では第五世代コンピュータの開発を目指す国家プロジェクトなども起こりました。
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Udemyで講座を探す >なぜ第2次AIブームは終わったのか?エキスパートシステムの問題点
第2次AIブームが終わった背景には、エキスパートシステムの問題点がありました。
特徴量は、人間が教えなければいけない
まず、第2次AIブームの頃のAIの問題点として、AIは予め人間の手でインプットされたプログラムに従って機械的に処理しているに過ぎず、判断ポイント(特徴量)は必ず人間が教える必要がある、という根本的な問題がありました。
膨大な専門分野データを、システムに入力するための形にすることだけでなく、入力そのものもすべて人間がしなければならず、莫大なコストと時間が必要だったことを解決する手立てが揃っていなかっただけではありません。
一般にエキスパートシステムが求められる業種や職種の領域はかなり複雑で、単純で伝統的なアルゴリズムでは適切な解決策を提供できません。専門家の知識や規則の中にはお互い矛盾するものや定式化できないものも多く、その矛盾や例外も包括するような論理体系をコンピュータ上で再現するのは極めて難しいものです。
膨大な専門知識間の定式化・ルール化をすべて人間がしなければならない困難。また、技術的な問題も大きな要因でした。第2次AIブームの1980年当時は、パーセプトロンを組み合わせた3層構造(入力、中間、出力、の3層)しか作れなかったため、人間の頭脳が行うような複雑な学習をコンピュータにさせることは出来ませんでした。
ハードウェアのパワーが必要
また、人間が教えたデータからコンピュータが自動的に特徴点を抽出できるほどには、ハードウェアのパワーもありませんでした。加えて、現在のように研究を加速するインフラ、世界中の膨大な情報にアクセスできるインターネットやその広がり、クラウドサービスなどの存在もありませんでした。
つまり人間の枠を超えられないことによる様々な限界がありました。
このため、推論エンジンの能力も期待より低いことが多く、エキスパートシステムを実動させても満足な結果が得られず、結果としてプロジェクトが中止になることも多くなりました。
こうして、複雑な諸問題に対し十分な結果が出せないまま第2次AIブームは下火となり、1990年代以降は、2010年代のGoogleの猫認識、AlphaGoのプロ棋士への勝利、IBMのWatsonなど、ディープラーニングを活用した事例が一気に台頭し、第3次AIブームが到来するまで、冬の時代(第2次)に入ることになりました。
エキスパートシステムの実用例
第3次AIブームと呼ばれる現在は、AIを支える技術、AIをビジネスとして活用出来る環境、が、過去2回のブームの時代とは比べ物にならない程揃っています。
ハードスペックの向上でリアルタイム処理やビッグデータが普及しましたし、クラウドの進展やスマホの普及等、過去のブームでは超えられなかった壁を超えられたことが、現在のブームを巻き起こしているといっても過言ではありません。
特にエキスパートシステムとは呼ばれていませんが、今もエキスパートシステムは様々なところで実用されています。
実用例1:レコメンドシステム
amazon:https://www.amazon.co.jp/
楽天市場:https://www.rakuten.co.jp/
Amazonや楽天などのECサイトなどの評価システムとしてよくみられるシステムです。欠けている情報を推測して提示するエキスパートシステム、といえます。
サイトを訪問した人に、その人の見た商品情報から似た商品(その人が欲しいと思うであろう商品)をお勧めしたり、その人が見たニュースから次にその人にお勧めしたい(その人が読みたいであろう)ニュースの一覧を表示したりするレコメンドシステム、実はエキスパートシステムなのです。
実用例2:シェフ・ワトソン
IBM Chef Watson: https://www.ibmchefwatson.com/community
IBMのシェフ・ワトソンは、材料を入力すると、膨大なデータと自然言語処理能力を生かしてレシピを提案してくれるシステムです。
データとして既に料理の技能に関する情報をたっぷりと蓄積しており、自然言語処理技術を活用して、特定の食品がいかに作用し合うかといったパターンを提示してくれます。
また、既存のレシピを分析し、調理パターンに関する情報や用語も収集しており、このデータを食品化学や人間の味覚の嗜好といった情報と組み合わせることで、ワトソンは新しい材料の組み合わせを使った、まったく新しいレシピを生み出すことができます。
実用例3:罰金を支払わずに済むようアドバイスする無料ソフトウェア「DoNotPay」
参考記事:https://venturebeat.com/2016/06/27/donotpay-traffic-lawyer-bot/
DoNotPayは交通違反切符の異議申し立てを行うために作られた世界初のAI弁護士ボットです。2015年にイギリス・ロンドンでリリースされ、2016年3月にはアメリカ・ニューヨークでもスタートした無料のAI弁護士ボットが「DoNotPay」です。不当な駐車違反を受けた時に相談すると、チャット形式で罰金を取り消しにするためのアドバイスをくれるというもので、実際に25万件の相談を受けて16万件の違反切符を取り消しにしたという実績を出しています。
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