行政機関で注目される今話題のEBPMとは?活用事例とあわせてわかりやすくご紹介

行政機関で注目される今話題のEBPMとは?活用事例とあわせてわかりやすくご紹介

いま、行政機関において、より効果的な政策立案・実行のための抜本的な見直しが進んでいます。そこで、EBPMと呼ばれる考え方が注目を浴びるようになりました。

EBPMとは何なのか、どのように活用されているかなどを分かりやすく解説します。

EBPMとは?定義をわかりやすく解説!

EBPMとは(Evidence・Based・Policy・Making)の略称で、「エビデンス(合理的根拠)に基づき、より実効性の高い政策を立案すること」と定義できます。「エビデンスに基づく」とは、経験や勘に頼る方法ではなく、因果関係の深い客観的データ(統計・指標等)をとり、適切に分析して判断する方法です。

EBPMの目的とは?

EBPMの目的は、政策の実効性向上と行政に対する国民からの信頼獲得にあります。

従来の政策立案では、統計や指標等の客観的データよりも、経験や勘に頼って政策を立案してしまうケースが多く存在しました。そうした政策は実効性が低く、予算の無駄遣いになる場合が多く、国民の不信感につながります。EBPMで政策の立案・実行に客観的データを用いることで、政策の効果を高め、社会問題の解決に役立てます。

なぜ、今EBPMが注目されるのか?

今EBPMが注目されている背景には、ICTの急速な発展があります。

従来の方法でも、統計や指標等のデータを全く活用しなかったわけではありません。ただし、大量のデータから因果関係の深いデータを正確に入手することは、人的資源や技術、予算の面で限界がありました。

しかし近年、ICTの発展により、膨大なデータから効率的に必要データの抽出・整理が可能になりました。今後ICTの発展が、EBPMの推進を後押しすると予想されます。

EBPMの重要性

日本は依然として厳しい財政状況が続いています。加えて、少子高齢化や過疎化等の社会問題も多く抱えています。そのような中では、限られた資源で、より実効性の高い政策を実行していかなければなりません。

そこで、EBPMを推進し、民意や社会状況を詳細かつ的確に反映した政策の立案・実行が重要です。

エビデンスの乏しい政策の扱い方

EBPMは、エビデンスが重要です。では、政策がエビデンスに乏しい場合にどうするか、2つのパターンに分けて解説します。

効果がある証拠がない(no evidence of effect)

例えば、「健康診断を定期的に受診している人の方が、がんになる確率が低い」というデータがあるとします。このデータから、「健康診断を定期受診すればがんになりにくい」と結論づけて政策立案する場合は、効果がある証拠がないといえます。

なぜなら、健康診断を定期受診している人は、そもそも生活習慣に気をつけていて、その結果がんになりにくかっただけである可能性が存在するためです。

このように、十分な検証データが揃っていない状態で政策を立案することは、避ける必要があり、因果関係がはっきりしていない場合は、検証を重ねて因果関係があるか否かを調べる必要があります。

効果がない証拠がある(evidence of no effect)

例えば、「健康診断を定期的に受診することと、がんになる確率に因果関係は無い」と海外の研究で証明されていた場合、効果がない証拠があるといえます。

このように、過去に効果のないことが既に効果がない証拠がある場合や証明されている場合には、同様に避ける必要があります。

効果的なEBPM実践のために押さえるべきポイント

EBPM実践のポイントは、政策とその効果の因果関係を明確にすることです。そのために、下記のようなロジックモデルを活用します。

①現状分析し、政策課題を決める
②どのくらいの人員・予算等を投入するか
③どのような活動をするか
④その活動により、どのような実績を出すのか
⑤その実績により、どのような成果があるか
⑥それは、社会的にどのような影響を与えるか

という順に考えて政策立案します。
この一連のプロセスにより、政策内容と効果・影響との因果関係を明示できます。また、これにより得たエビデンスを次の政策改善に役立てることも可能です。

EBPMの取り組み事例

EBPMの内容や実践する際のポイントなどを解説しました。

ここからは、EBPMにおいて具体的にどのような取り組みがなされているのか、その事例を4つご紹介します。

新潟県柏崎市が取り組む「デジタル予算書」

新潟県柏崎市は、市の予算書をデータベース化し、一般公開しています。元々ホームページで公開していましたが、概要のみの記載で、具体的にどのような事業にいくら掛かるのかなどは分かりませんでした。

そこで、以下のようなサイトを作成し、事業内容や予算等を誰もが詳細に調べられるようになりました。

出典:柏崎市『柏崎市デジタル予算書

デジタル予算書では、予算に盛り込んだ事業ごとの内容・金額・行政からの評価等を確認できます。例えば、道路の補修事業について知りたい場合、地図データを活用して詳細な場所まで確認できます。

ビッグデータでコロナ禍の経済を見る「V-RESAS」

「V-RESAS」は、地方創生を情報面で支援することを目的とした経済分析サイトです。新型コロナウイルスによる地域経済への影響の把握や、収束後の経済再生を目的として、2020年6月から運用開始しています。

「V-RESAS」により、人流・消費・飲食・宿泊・イベント・雇用・企業財務のジャンルからさまざまなデータを閲覧できます。企業財務以外のジャンルに関しては、都道府県別・時間帯別で表示することも可能です。
以下に、ジャンルごとに閲覧できるデータの項目をまとめました。

人流 都道府県をまたいだ移動、滞在人口の動向
消費 決済データから見る消費者動向、POSレジで見る売上動向
飲食 飲食店情報の閲覧数
宿泊 宿泊者数、旅行者の宿泊動向(どの県からの宿泊者が多いかなど)
イベント イベントチケット販売数
雇用 求人情報数
企業財務 企業財務の動向(業種、勘定科目別など)

 

例えば、下記のデータは全国の決済データから、業種別の消費動向を表しています。
このデータから、「コロナウイルス拡大以前との比較をする」「どの業種が伸びているかを把握する」等の分析が可能です。

出典:内閣府『V-RESAS

「V-RESAS」で示した分析結果とその時期の出来事を照らし合わせることで、地域経済や人の行動、暮らしが読み取れます。

各種データの閲覧は、全国民を対象としているため、インターネットを利用できれば誰でも活用できます。

患者データ活用して医療費を抑制

広島県呉市は、医療費抑制のために、民間企業と協力してEBPMを実施しています。

診療報酬明細や健康診断データを活用して、医療費の増大要因となるような持病を患っている被保険者を抽出します。そして、対象者に個別指導・受診の推奨・ジェネリック医薬品の差額通知の送付などを実施しました。

重症化の予防や、ジェネリック医薬品への切り替え等につながったことにより、大幅な医療費削減を実現しました。ジェネリック医薬品への切り替えでは、約1.5億円の医療費削減に成功しています(平成25年度)

参考:総務省『ICTを用いた広島県呉市における「データヘルス」の取り組み支援

ビッグデータを活用した生活道路の安全対策

東京都杉並区は、国土交通省から提供を受けた「ETC2.0プローブデータ」により、視覚的に交通状況を把握し、交通安全対策に役立てています。

元々は、事故が起きてから対策を考える「事後対策」がメインでした。しかし、現在はビッグデータの活用により「予防型の対策」が可能になっています。

具体的には、「どこで急ブレーキをかけているか」のようなデータから、潜在的な危険箇所をピックアップし、路面標示やポール設置などの対策を実施しました。一部の区間では車両の平均速度が低下するといった結果につながりました。

その後も検証と改善を繰り返しており、事故の予防に貢献しています。

EBPMは「エビデンスに基づく政策立案」であり、実効性の高い政策立案・実行ができると述べてきました。
この記事で取り上げた事例以外にも、各地でEBPMを活用したさまざまな政策が行われています。

今後、ICTのさらなる発展に伴い、EBPMの効果・効率の向上が期待できます。行政機関の政策は、私たちの生活にも密接に関係しているため、EBPMはよりよい社会の実現に貢献するでしょう。