総務省による「自治体DX推進計画」とは?意義・概要・手順を解説

総務省による「自治体DX推進計画」とは?意義・概要・手順を解説

近年、DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉をよく耳にするようになりました。2020年12月には、総務省によって「自治体DX推進計画」が策定され、地方自治体でのDX化が進められています。

この記事では、「自治体DX推進計画」について分かりやすく解説します。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは

DXとは、2004年にエリック・ストルターマン教授(スウェーデン/ウメオ大学)が提唱した概念です。その内容は「IT技術を日常生活に浸透させることによって、よりよいものへと変革する」というものです。

経済産業省が2018年12月に発表した「DX推進ガイドライン」では、以下のように定義されています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

引用:経済産業省「DX推進ガイドライン Ver. 1.0

DXについてより詳しく知りたい方は、「デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?図を用いてわかりやすく解説」をご確認ください。

 

自治体DX推進計画とは

自治体DX推進計画とは、2020年12月25日に閣議決定した「デジタル・ガバメント実行計画」に基づいて策定された計画です。

ここでは、自治体DX推進計画がどのような意義や目的を持つのかについて解説します。

自治体によるDX推進の意義

自治体によるDX推進の意義は、「デジタルの活用によって多様な幸せを実現できる社会」を実現することにあります。

こうした自治体のDX化が求められる背景のひとつには、世界的に拡大している新型コロナウイルス感染症の対応において、地域や組織間における横断的なデータ活用ができなかったことが挙げられます。

デジタル活用によって、地域社会におけるつながりや多様なサービス創出するためには、住民と近い存在にある地方自治体の協力が欠かせません。

各自治体が運営する行政サービスにデジタル技術を活用してDX化を図ることで、業務効率化やデータ様式の統一化・円滑なデータ流通を促進して、行政サービスの更なる向上を目指しています。

サービスのDX化

 

自治体DX推進計画の重点取組事項

「自治体DX推進計画」では、重点取組事項として6つの項目が挙げられています。

ここからは、各項目の要点を解説します。

①自治体の情報システムの標準化・共通化

税金・保険・育児などの主軸となる17の業務システムについて標準化・共通化を進めて、業務の効率化・自動化に取り組むことが挙げられています。

各自治体で情報システムを共同利用できるようにすることで、職員の事務作業を軽減して、捻出した人材・財源を国民のためのサービス提供に充てることが期待されています。

さらに、住民においては、異なる地域・規模の自治体で共通のサービスを受けられるようになるほか、手続きの簡素化や迅速化といった効果が期待できます。

同時に、『ガバメントクラウド(Gov-Cloud)』と呼ばれる共通クラウドシステムへの移行も推進していく予定です。

②マイナンバーカードの普及促進

デジタル化を実現するうえで、オンライン上で本人確認ができるマイナンバーカードの普及が重要な鍵を握ります。

政府は、2022年度末までに、ほぼ全国民にマイナンバーカードを普及させることを目標としており、交付申請の円滑化に向けて、出張申請受付や土日開庁、臨時交付窓口の設置などを進める方針です。

マイナンバーの普及

③自治体における行政手続のオンライン化

住民からの申請件数が多い行政手続きについては、優先的にオンライン化が進められます。

オンラインでの行政手続きが可能になれば、住民が窓口に出向く手間や時間を省けます。仕事や育児等の理由で窓口に行けない人の利便性向上が期待できます。

また、地方公共団体等に対する行政手続きのオンライン化を促進するために、マイナポータル(※)といった情報システムを整備するとしています。

※マイナポータル:マイナンバーカードを用いて、オンラインでさまざまな行政手続きができるサービス

様々な手続きをオンライン化

④自治体のAI・RPA利用推進

AI・RPA(※)を活用して、膨大な事務作業を自動化する取り組みが挙げられています。

日本は少子高齢化が加速しており、2040年から本格的な人口減少社会になると見込まれています。人口減少に伴う人手不足に対応するためには、AI・RPAを活用した業務の効率化が重要です。

政府は、AI・RPAを活用した業務プロセス構築の実証をはじめ、自治体に向けてAI・RPA導入ガイドブックの作成・共有などを行うとしています。

※RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション):人間の手作業を自動化する技術

⑤テレワークの推進

職員が育児や介護等のライフステージに合わせた多様な働き方ができるように、ICTを活用したテレワークが推進されています。

テレワークの実現は、職員のワークライフバランスを維持することはもちろん、業務効率化による行政サービス向上、新型コロナウイルス感染症対策などの非常時における行政機能の維持という観点からも重要です。

情報システムの標準化・共通化や、行政手続のオンライン化などが進めば、それに伴って職員のテレワーク推進も円滑になることが期待されます。

政府は実証実験の実施をはじめ、導入事例・ノウハウを自治体に共有して、自治体へのテレワーク普及を促進するとしています。

テレワーク

⑥セキュリティ対策の徹底

行政手続きのオンライン化やテレワークが進むと、個人情報や機密情報の流出が懸念されます。これを踏まえて、地方自治体におけるセキュリティ対策の強化を進めるとしています。

具体的な施策としては、「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」の改定や、総務省が認定するセキュリティレベルが高い民間のクラウドサービスへの移行などが挙げられています。

出典:総務省『自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画

 

自治体DX推進計画の主な手順

自治体DX推進計画では、地方自治体が着実にDXに取り組めるように、実施手順を段階的に記載した「自治体DX手順書」が用意されています。

ここからは「自治体DX手順書」の4つのステップをもとに、DX推進に向けた手順について解説します。

ステップ0:DXの認識共有・機運醸成

DXを推進するにあたり、首長や幹部職員などのトップが、リーダーシップと強い責任感をもつことが必要です。また、一般職員も含め、組織全体として「DXとは何か」「なぜ取り組む必要があるのか」などの基礎的なことを理解・共有する必要があります。

それと同時に、利用者を第一に考えた行政サービスを提供するという、いわゆる「サービスデザイン思考」の共有も求められます。

「自治体DX全体手順書」では、利用者中心の行政サービスを提供するためのノウハウとして「サービス設計12箇条」が記載されています。

<サービス設計 12 箇条>
第1条 利用者のニーズから出発する
第2条 事実を詳細に把握する
第3条 エンドツーエンドで考える
第4条 全ての関係者に気を配る
第5条 サービスはシンプルにする
第6条 デジタル技術を活用し、サービスの価値を高める
第7条 利用者の日常体験に溶け込む
第8条 自分で作りすぎない
第9条 オープンにサービスを作る
第 10 条 何度も繰り返す
第 11 条 一遍にやらず、一貫してやる
第 12 条 情報システムではなくサービスを作る

引用:総務省「自治体DX全体手順書【第1.0版】

ステップ0の取り組み事例として、千葉県市川市「市川市DX憲章」と、大阪府豊中市「とよなかデジタル・ガバメント宣言」の2つが挙げられます。

いずれも、DX推進の目的や取組内容を明示しており、組織内での認識共有や実践意識の向上に努めています。

ステップ1:全体方針を決定する

全庁が一丸となってDXを実施・推進していくためには、全体的な方針(以下、全体方針)を掲げて、自治体で広く共有する必要があります。

この全体方針は、DX推進のビジョン及び工程表に基づいて決定することとされています。

DX推進のビジョンは、主に以下の2つです。

  • 住民の利便性の向上や業務効率化
  • 行政の効率化と高度化、民間のデジタル・ビジネスなどの価値創出

これらのビジョンや各地域の実情を加味して、自治体ごとに目標時期、順序を含めて工程表を作成します。工程表の作成イメージについては、自治体DX全体手順書に記載されています。以下をご参照ください。

自治体DX全体手順書【第1.0版】

ステップ2:推進体制を整備する

DX化に向けた全体方針を実行していくためには、司令塔となるDX推進担当部門を設置したうえで、各部門が横断的に連携できる体制を構築することが重要です。

また、DX推進担当部門の役割に応じてデジタル人材を確保・育成することも求められます。既存職員でデジタル人材を確保できない場合には、外部人材の採用や、民間事業者への業務委託なども検討する必要があるとされています。

DX人材の確保や育成などについて詳しく知りたい方は、「DX人材とは何か?DX人材の採用、育成方法をそのポイントとともに解説」をご覧ください。

ステップ3:DXの取り組みを実行

前述した6つの重点取組事項に沿って、DXの実行を計画的に進めます。「自治体DX全体手順書」では、各自治体でPDCAサイクルによる進捗管理が望ましいとされています。

より柔軟でスピーディーな意思決定が必要な場合には、「OODA(ウーダ)ループ」というフレームワークを活用することも推奨されています。

OODAループとは、Observe(観察)・Orient(状況判断)・Decide(意思決定)・Act(実行)から成る意思決定プロセスのフレームワークです。

各自治体・各部門の取組内容に応じて、継続的な進捗管理と改善を図りながらDXを進めていくことが重要です。

出典:総務省『自治体DX全体手順書【第1.0版】

スピーディーな意思疎通

 

自治体DXと共に取り組むべき事項

自治体DX全体手順書では、自治体のDX化とともに取り組むべき事項として、「地域社会のデジタル化」「デジタルデバイド対策」の2つが挙げられています。

地域社会のデジタル化

自治体のDX化によって目指すところは、すべての地域がデジタル化による恩恵を受けられる社会の実現です。このような社会を実現するためには、ローカル5Gをはじめとする通信環境の整備や、デジタル技術を活用したサービスの導入が求められます。

政府では、地域社会のデジタル化に向けて以下の取り組みを想定しています。

地域デジタル社会の形成に向けた取組例

  • デジタル社会の恩恵を多くの住民が実感するためのデジタル活用支援
  • 地域におけるデジタル人材の育成・確保
  • デジタル技術を活用したサービスの高度化・魅力ある地域づくりの推進・安全の確保
  • 中小企業のデジタル・トランスフォーメーション支援

デジタルデバイド対策

自治体のデジタル化を図るうえで重要視すべきなのは、年齢や性別、経済的な理由などにかかわらず、すべての国民にデジタル化の恩恵を行き渡らせることです。

デジタルデバイド対策とは、いわば「情報格差」を防ぐための対策のことで、誰にも取り残されない形でデジタル化を実現できるような環境整備が求められています。

政府は、デジタルデバイド対策として以下の取り組みを挙げています。

▼デジタルデバイド対策の取組

  • オンラインでの行政手続きや利用方法を相談できる「デジタル活用支援員」の利用促進
  • 地域関係者との連携による、講座の開催やアウトリーチ型の相談対応

「デジタル活用支援員」とは、自宅訪問や電話相談等を通して、オンラインサービスやICT機器の利用方法を教える人です。オンラインによる行政手続きやサービス利用を使いこなせない高齢者等に対してサポートすることで、デジタルデバイドの解消を図ることが目的です。

出典:総務省『自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画

 

社会全体としてDXを進めるにあたって、住民とより近い存在にある自治体の積極的な取組が欠かせません。「自治体DX推進計画」では、自治体のDXを横断的かつ重点的に推進することで、行政サービスの更なる向上を目指しています。

現在においても、「マイナンバーカード」や「マイナポータル」などを用いれば、複数の行政サービスをオンラインで受けられるようになってきています。今後、自治体DXがさらに進めば、より利便性が高く、安心・安全な地域社会の実現につながることが期待されます。