この記事では、企業における人材育成のコンセプトを具体化した教育体系について取り上げます。教育体系とは何か、どのように構築するのか、実際の事例などを踏まえて紹介します。
教育体系とは?教育体系図のサンプルをふまえて解説!
教育体系 (Training System) とは、企業や自治体、官公庁などにおいて、従業員の職級と求められるスキル、それを身につけるための教育手段を整理したもので、全社的な人材育成の指針とも言えます。教育体系をもとに、人事担当者は職種別研修、階層別研修などを企画、開催します。以下は教育体系図の例です。
教育体系の例
企業によって職種や階層の定義はさまざまですので、自社の人事体系に合わせて、「どの段階の人に何を学んで欲しいか」を整理します。
教育体系構築の目的
上記のような教育体系を構築する目的は、職級ごとのコンピテンシーを明確化し、企業の価値を最大化する人材を育成するためです。教育体系を踏まえた研修を適切に設計することで、人材育成を長期的な視点で推進できます。
また、一貫性のある教育体系を構築することで、経営層にも研修の意義や、時間と費用を割く必要性を説明できます。加えて、教育体系を社内に公表することで、研修を受講する従業員にも自身の現状やこれから求められるスキルについての理解が深まり、成長へのモチベーションが高まります。
教育体系を構築する手順
教育体系は会社によって異なりますが、どのような手順で構築していけばよいのでしょうか。ここからは、基本的な流れを紹介します。
現状の分析
はじめに、自社のビジネスにおいて求められるスキルを整理し、「コンピテンシーモデル」を構築します。各職級において優れた成果をあげている従業員の行動から、高いパフォーマンスを発揮するための要素を抽出します。
なお、IT業界においては、IPA (情報処理推進機構) が策定した「iコンピテンシディクショナリ」が広い領域をカバーしており、これを参考にすることもできます。
出典: IPA「iコンピテンシディクショナリ」より、タスクディクショナリ
出典: IPA「iコンピテンシディクショナリ」より、スキルディクショナリ
教育ニーズ・教育課題の調査
次に、ハイパフォーマーから得られたコンピテンシーと、現場の実情を比較し、どの職級において、どのようなコンピテンシーを身につけるための研修が必要か、というニーズを洗い出していきます。
このような流れについても、「iコンピテンシディクショナリ」に例が示されており、参考にすることができます。
出典: IPA「iコンピテンシディクショナリ」解説書
教育体系の設計
職級ごとのコンピテンシーが確定したら、そのスキルを習得するために必要な教育・研修を設計します。職種別・職級別に、コンピテンシーを整理し、研修の目標として設定します。
詳細な教育計画の作成
職種・職級ごとの研修計画が策定できたら、それらをさらに掘り下げて、具体的なカリキュラムやスケジュール、研修形態を決定します。
具体的なカリキュラムの例は、総務省が公開している「ICTスキル総合習得プログラム」などで見ることができます。
出典: 「総務省 ICTスキル総合習得プログラム」
教育体系の構築・実施で注意すべきポイントとは?
教育体系を構築する際、個別の研修の内容に意識が向きがちですが、全体としての整合性や、体系そのものを評価、改善する体制づくりも重要です。教育体系を構築するうえでのポイントを紹介します。
経営理念との整合性を意識する
教育体系を構築するうえでは、研修で身につけるスキルやカリキュラムの内容も重要ですが、企業の理念や経営目標との整合性についても検討する必要があります。企業が目指す姿と、それを実現するための人材育成は、常に対応していなければなりません。教育体系を俯瞰的に眺めて、自社のビジョンと一致しているかを確認しましょう。
多様な働き方や学習ニーズに対応した選択研修の拡充
近年では、時短勤務や地方からのテレワークなど、多様な働き方が認められるようになっており、従来の画一的な集合研修が必ずしも最適な形態ではなくなっています。そこで、Udemyをはじめとした動画による学習コンテンツなど、一人ひとりの働き方や身につけたいスキルなどのニーズにフィットした学びの選択肢を提供することで、従業員の満足度とスキルアップを両立させることができます。
研修の効果測定と人事評価への反映を徹底する
企業研修においては、「何を学んだか、身につけたか」ではなく、「満足したか」といったアンケートの回答が評価指標になってしまうことが多々あります。しかし、研修の目的は、自社の競争力を高めるために従業員に成長してもらうことです。テストやロールプレイでの行動観察など、研修の効果を適切に測定できる方法を検討し、その結果をきちんと人事評価に反映させるようにしましょう。
また、受講者全体の効果測定結果をもとに、研修の難易度や内容を、柔軟に改善していくことも重要です。
大企業とベンチャーの違いを意識する
教育体系を構築するうえで、「自社では人材を何年計画で育成するか」を決めておく必要があります。大企業では、現在でも終身雇用を前提として、昇進と連動した10年、20年のスパンで人材育成を行っています。一方で、ベンチャー企業では新卒入社でも半年から1年で戦力になってもらう必要がありますし、勤続年数も平均すると短くなります。自社では人材育成に何年かけられるのかを加味して、教育体系を設計しましょう。
教育体系を用いた人材育成の成功事例
最後に、教育体系を構築し、それに基づいた人材育成を行うことで、従業員の成長や競争力の向上を実現した成功例を紹介します。
トヨタ自動車
トヨタ自動車では、新卒入社から10年、20年といった長いスパンで継続的に成長を促す教育体系を設計し、運用しています。段階ごとにコンピテンシーを定義し、対応した研修やOJTを通じた指導で、「トヨタの看板がなくても活躍できる人材」を育成することを目指しています。
出典: トヨタ自動車の教育体系
また、自らのキャリアプランとその実現のための計画を定期的に上司とすり合わせる「自己申告制度」や、国内外の事業所、関連会社、他社に派遣することでさまざまな経験を積むことができる「修業派遣制度」など、日本を代表する企業ならではの、人間的成長に機軸を置いた人材育成が行われています。
キヤノン
キヤノンにおいても、国内外の事業所への派遣などグローバルに展開する企業ならではの、成長を支援する仕組みが整備されています。また、入社前の内定者からはじまる、細分化された職級ごとの教育体系が確立されています。
出典: キヤノンの人材育成体系
外部の研修受講や、AIなどの先端領域における大学への派遣 (大学院への入学) 制度なども充実しており、「より競争原理の働く人事体制の構築」を目指しています。
この記事では、企業における人材育成のコンセプトを具体化した教育体系について紹介しました。自社の経営理念と合致する教育体系を構築することで、従業員の成長を促し、企業の競争力を高めることができます。
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