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人的資本経営とは? 注目されている背景や人材版伊藤レポートも解説

近年トレンドになっている、人材を資本と捉えた考え方の人的資本について、基本的な考え方と、人的資本経営への変革を提唱する経済産業省の「人材版伊藤レポート」について紹介します。

人的資本とは?

近年、「人的資本」 (Human capital) という言葉が注目されています。これは、企業経営において、従業員 (人材) を成長し価値創造の担い手になる資本として捉えるものです。人材に対して適切な「投資」を行うことで、入社当初の、あるいは現在の状況を上回る高い価値を生み出し、結果として企業の優位性の源泉となります。

人的資本と対になる言葉として、「人的資源」 (Human resource) があります。これは、資源という言葉の通り、人材に対して投資するのではなく、従業員が身に着けた能力を、いかに効率的に「消費」するか、という意味になります。そのため、採用や教育など、人材に投じる資金はコストとして捉えられ、いかに支出を抑えるかがマネジメントの主眼になりがちです。

人的資源と人的資本の違い

人的資本が今重要視されている背景

人的資本という概念は新しいものではなく、一説には18世紀イギリスの産業革命時代にさかのぼるとも言われます。

人的資本という概念は新しいものではなく、一説には18世紀イギリスの産業革命時代にさかのぼるとも言われます。

そのように、古典的ともいえる人的資本の考え方が、なぜ今注目されているのでしょうか。

環境の変化による人材戦略の見直し

大きな要因は、企業のビジネスモデルの変化と、それに伴う人材戦略の見直しです。

社会構造が、ITが生み出すサービスに価値を置くように転換したことで、人材に求められるスキルも変化しました。 さまざまなバックグラウンドを基に、社会のニーズをとらえた形のないサービスを生み出すための発想力と実現力が求められます。そのようなスキルを有する人材を採用するにせよ、従業員を育成するにせよ、人材を資本と捉えた積極的な投資が必要になったのです。

ESG投資の浸透

また、近年投資家が企業を評価する観点として、ESGが注目されるようになっています。ESGは、Environment (環境)、Social (社会)、Governance (ガバナンス) の頭文字です。

人的資本は、SocialまたはGovernanceに含まれるとされ、企業が人材にどの程度投資しているかで、企業の成長性が評価されます。また、その状況について、非財務情報のひとつとして開示が求められるようになっています。

このように人的資本は、企業が投資家や社会と適切なコミュニケーションを図るために必要不可欠な要素となっています。

人材版伊藤レポートとは?

そのような社会の変化の中で、2020年に経済産業省の「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」が通称「人材版伊藤レポート」と呼ばれる報告書を公表しました。これは、座長である伊藤邦雄(一橋大学CFO教育研究センター長)の名前に由来します。

人材版伊藤レポートでは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方として、人的資本経営を提唱しています。

持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材伊藤レポート~①
持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材伊藤レポート~②

ここからは、人材版伊藤レポートの内容を踏まえた、人的資本経営の在り方について紹介していきます。

伊藤レポートからみる人材戦略の在り方

伊藤レポートの内容は、多岐にわたりますが、全体を貫くポイントとして人材戦略があります。経営層が策定する人材戦略をもとに、投資家や従業員とコミュニケーションを取り、企業価値を向上させます。その人材戦略の核となるのが、3つの視点と5つの共通要素です。

「人材版伊藤レポート」

人材戦略に求められる3つの視点

3つの視点は、各社の人材戦略の取り組みを俯瞰的にとらえるためのもので、以下のように整理されます。

  1. 経営戦略と人材戦略の連動
    企業価値を向上させるために、人材戦略は経営戦略やビジネスモデルと一体で策定、実行することが必要不可欠です。
  2. As is – To beギャップの定量把握
    経営戦略上重要となる人材アジェンダを特定し、目指すべき姿 (To be) と現在 (As is) のギャップを定量的に把握しなければなりません。
  3. 企業文化への定着
    企業文化は、人材戦略を推進した結果醸成されるものと考えられます。そのため、人材戦略を策定することはすなわち企業文化をデザインすることとも言えます。

人材戦略に求められる5つの共通要素

5つの共通要素は、個社性の強い人材戦略において、どの会社にも共通して取り組むことが求められているもので、以下のように整理されます。

  1. 動的な人材ポートフォリオ
    人材ポートフォリオは、従業員ひとりひとりのスキルや配置などを統合した人的資産の一覧のことを示します。ポートフォリオの最適化を行うための施策のひとつに、ジョブ型人事制度があります。
    ジョブ型人事制度については「DXに欠かせない?ジョブ型人事制度のメリット・デメリットを解説」を参照してください。
  2. 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
    イノベーションを起こすためには、性別や国籍といった属性、そして経験や感性、価値観、専門性の異なる多様な個人の掛け合わせが重要です。チームがどの程度多様であるかについてもKPIを設定し、検証することが必要です。
  3. リスキル・学び直し
    人材ポートフォリオにおいて必要だが不足している、という領域について、既存の人材を再教育しスキルを身に着けさせることで、ポートフォリオを充足させることも多くあります。リスキルについては、「DX時代の人材戦略「リスキル」の重要性について詳しく解説」を参照してください。
  4. 従業員エンゲージメント
    人材にスキルを発揮してもらうには、「企業と従業員、従業員同士の絆」である従業員エンゲージメントを高めることも重要です。
    従業員エンゲージメントについては、「従業員エンゲージメントとは?高めるメリットや方法を紹介!」        を参照してください。
  5. 時間や場所にとらわれない働き方
    勤務時間やオフィスを一律に定めることは、多様性を重視した組織作りにおいてはマイナスに働きます。また、人的資本がいつでもどこでもその価値を発揮できる環境を整えることは、事業継続やレジリエンスの観点からも重要です。

この記事では、人的資本についての基本的な考え方と、人的資本経営についての指針を示した経済産業省の「人材版伊藤レポート」について紹介しました。企業の人材戦略のあるべき姿をイメージし、実現していくための参考にしてください。