アダプティブラーニングは、IT技術によって学習効果を高める新しいタイプの文部科学省からも注目されている教育方法です。学習者と指導者の双方がアダプティブラーニングでメリットを得ることができます。
この記事ではアダプティブラーニングの概要やメリット・デメリットの解説から、導入方法、導入事例、代表的なツールについて紹介します。
INDEX
アダプティブラーニングとは?
アダプティブラーニングとは、学習者の理解度などに合わせて出題内容や難易度を、IT技術を活用して調整し、学習効果を高める教育方法です。アダプティブ(adaptive)とは、適応するという意味の英単語です。このため、アダプティブラーニングは「適応学習」と呼ばれることもあります。
従来の教育方法では、指導者が自らの経験やスキルをもとに、学習者にとって最適な内容を教えることが一般的でした。しかし、現在ではICT技術や人工知能によるパターン認識技術が発達したことで、学習内容を自動で最適化する仕組みが実現しています。
文部科学省は、「Society5.0におけるEdTechを活用した教育ビジョンの策定に向けた方向性」の中で、教育改革の一環として教育にITを用いるEdTech(エドテック)の重要性を強調しています。この提言の中で、アダプティブラーニングは、「すぐにでも着手すべき課題」として推奨されています。
EdTechは「Education(教育)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語です。アダプティブラーニングのように、テクノロジーを活用した新しい教育スタイルは「EdTech(エドテック)」と呼ばれます。
なお、アダプティブラーニングが効果を発揮するのは、子どもの教育現場だけではありません。企業の人材育成や社会人を対象とした語学学習といった現場においても、アダプティブラーニングは注目されています。
【アダプティブラーニングの歴史】なぜ広まったのか?
1950年代、「コンピューターを用いた効果的な学習方法」であるComputer-Aided Instruction(CAI)が唱えられ始めました。
その後、IT技術の発展に伴い、実際に、教育分野にIT技術が用いられるようになりました。一般家庭にもコンピューターが普及するようになった1990年代にはCD-ROMを教材とした学習が開発されました。このような学習方法は、Computer-Based Training(CBT)などと呼ばれます。
さらに2000年代にはインターネットのブロードバンド化が進み、インターネットを用いたeラーニングが普及しました。eラーニングでは相互の情報交換が可能であることにより、指導者や人材育成の担当者などが、学習者の進捗状況を把握できるようになりました。特に2010年代からは、スマホやタブレット端末の登場により、移動時間や隙間時間にも学習することができるようになり、ますますeラーニングが注目されました。なお、モバイル端末を用いたeラーニングのことを、特にモバイルラーニング(mラーニング)と呼びます。
その後、eラーニングの特性をさらに活かした効率的な学習方法として、学習者の進捗や、得意・不得意に応じて学習コンテンツを適応させるアダプティブラーニングが注目を集めるようになったのです。
現在では、学習意欲を高めることができるよう、学習過程に楽しさや達成感をもたらすゲームの仕組みを取り込んだ「ゲーミフィケーション」も注目されています。
eラーニングの歴史について、詳しくは、「eラーニングとは?意味や歴史、LMSを解説!企業向けのオススメ講座も」をご覧ください。
eラーニングとの違いや、その他関連用語の確認
アダプティブラーニングの「個々人に合わせた学習」という点は、教師が対面で行う学習で実施することも不可能ではありません。しかし、デジタルコンテンツのほうが学習者に応じたコンテンツを割り振りやすく、データのやり取りも効率的に行えるため、eラーニングを用いることが効果的です。
アダプティブラーニングと混同されやすい用語として、eラーニングやモバイルラーニング、アクティブラーニングなどが挙げられます。各用語とアダプティブラーニングの違いは次の通りです。
■eラーニング
eラーニングとは、オンラインの学習サイトなどを通じて学ぶ仕組みを表します。eラーニングでは指導者と学習者の間で双方向のコミュニケーションをできない点が、アダプティブラーニングとの違いです。
■LMS
LMSは、「Learning Management System」の略称で、eラーニングの学習状況を管理するシステムを表します。LMSはあくまでもレポート回収や進捗管理などをサポートするためのシステムで、学習方法の一種ではありません。
■モバイルラーニング
モバイルラーニングは、eラーニングの一種です。スマートフォンなどの携帯端末を使って、移動中や外出先でも学習できるeラーニングがモバイルラーニングと呼ばれます。
■アクティブラーニング
アクティブラーニングとは、学習者が自発的に学習できるように設計された教育方法です。グループワークやディベートなどを通じて自ら学ぶ力を育みます。EdTechの一種であるアダプティブラーニングと異なり、アクティブラーニングでは必ずしもIT技術を使うとは限りません。
アダプティブラーニングのメリット、デメリット
ここでは、アダプティブラーニングのメリット、デメリットを紹介します。導入を検討する際に、参考にしてみてください。
学習者のメリット
アダプティブラーニングは、学習者の習熟度に合わせて内容が調整されるため、より効率的に学べる点がメリットとして挙げられます。
また、内容についていけない、同じ研修を受けたものの受講者によって理解度や身に付いたスキルにばらつきがある、といった事態を避けることができ、指導者の力量や相性に左右されることなく、一定の学習効果を得られることが学習者にとってのメリットです。
さらに、アダプティブラーニングで使用するツールによっては、学習者同士で情報共有ができ、モチベーションの向上に繋がります。
学習者のデメリット
アダプティブラーニングは、分析データに基づいた学習プログラムのため、知識の習得や座学で効果を発揮するものの、実践的な内容には向いていない点がデメリットです。営業やディスカッションなどの対人スキルやコミュニケーション力の向上、ものづくりなどの技術習得には向いていません。
また、自宅でアダプティブラーニングを受けたい場合、通信環境や端末を自分で用意しなければならない点もデメリットです。
指導者のメリット
アダプティブラーニングでは、受講者ごとの学習状況を確認できるため、指導者は的確なフィードバックを行えます。また、教材などを準備する手間やコストが省ける点も指導者にとってのメリットです。
データ収集や分析などの事務作業に割いていた時間を、学習者の支援など、より付加価値の高い活動にあてられます。
また、アダプティブラーニングの過程では、学習進捗や学習者の得意・不得意、興味関心を把握することが可能です。また、LMSなどeラーニングのプラットフォームを利用すれば、さまざまな教材から学習内容を選べるため、研修やセミナーを探す手間を省くことができます。
指導者のデメリット
企業や学校などで、アダプティブラーニングを導入する場合、学習環境の整備に初期コストがかかる点がデメリットです。アダプティブラーニングを提供するためには、ソフトウェアやハードウェアを揃える必要があります。
また、従来の教育方法に慣れ親しんでいる指導者にとっては、システムの使い方を身に付けなければならない点もデメリットです。アダプティブラーニングを使った学習の進め方や、オンライン通話による学習者とのコミュニケーションに慣れる必要があります。
アダプティブラーニングの導入方法
アダプティブラーニングでは、個々の学習者に対応する膨大な学習コンテンツが必要となるため、自社で教材を作成することは難しいでしょう。
アダプティブラーニングを企業で導入するためには、学習教材を豊富に揃えたeラーニングサービスに契約することが一般的です。例えば、ビジネスパーソン全般からシステムエンジニアなど専門職にも支持される「Udemy(ユーデミー)」は、実務経験の豊富な質の高い講師陣による、幅広い分野の教材を揃えていることが特徴です。さらに、Udemyの法人向けプラン「Udemy Business」では、6,000以上の講座を「定額学び放題」で受講可能。「Udemy Business」では、管理システムから受講者の学習進捗を把握でき、学習すべきコンテンツの割り当ても簡単に行えます。さらに、カリキュラム登録でレベルに応じた学習コンテンツを割り当てられるほか、自社オリジナルの研修コンテンツも追加できます。また、企業の自己啓発支援として導入することで、社員による自律型学習にも活用可能です。
企業による、「Udemy Business」を用いたアダプティブラーニングの成功事例について、詳しくは千葉銀行による導入事例の記事の記事を、併せてご覧ください。
アダプティブラーニングの導入事例
アダプティブラーニングを導入している組織は、企業や学校などさまざまです。以下では、企業で導入されているアダプティブラーニングの事例として西日本旅客鉄道株式会社のケースを紹介します。
西日本旅客鉄道株式会社では、業務内容を効率よく習得するための仕組みとして記憶定着型学習エンジン「Cerego」が導入されました。
ダイヤ乱れの修正などを担当する運輸関係司令員には、業務に関する数多くの知識が必要です。適切なタイミングで、繰り返し問題を提示してくれるCeregoの導入により、マニュアルの内容を効率よく身に付けられるようになりました。
また、業務マニュアルを習得するための学習教材を手軽にアップデートできるようになったことも、Ceregoの導入で得られた効果です。
アダプティブラーニングの代表的なツール
アダプティブラーニングを提供するための仕組みには、前述のCerego以外にも複数の種類があります。代表的なツールは以下の通りです。
Core Learn
Core Learn(コア・ラーン)は、凸版印刷株式会社が提供しているアダプティブラーニング向けのデジタル教材です。
凸版印刷株式会社が、三菱東京UFJ銀行から新人教育向けシステム構築を依頼されたことをきっかけに、Core Learnの開発が始まりました。現在では、金融業界など複数の企業でCore Learnが導入されています。
適切なタイミングで繰り返し復習を促し、知識を確実に定着させる点がCore Learnの特徴です。単に同じ問題を繰り返すだけでなく、学習者の習熟度に応じて類題がランダムで出題されるため、理解が深まります。
また、学習者全体や個々の進捗状況は、管理者向けの画面で分かりやすく見ることができます。スマートフォンやタブレットなどに対応しているため、時間や場所を問わず学習できます。
すらら
すららは、株式会社すららネットが提供している対話型のICT教材で、国内の学習塾や学校に導入されています。
イラストや図解が豊富な操作画面を通じて、ゲーム感覚で勉強できることがすららの特徴です。画面内のキャラクターとの対話形式で授業が進むため、学習内容を分かりやすく学べます。
また、学習者に合ったレベルの問題が繰り返し出題されるため、無理なく学習を続けることができます。学習管理機能により、親子で一緒に学習計画を立てたり、指導者とやりとりしたりすることもできます。
Qubena
Qubena(キュビナ)は、株式会社COMPASSが提供している学校向けのデジタル教材です。全国の小学校や中学校、教育委員会などで導入されています。
学習者の苦手分野や間違いのパターンを人工知能で分析し、学習内容を最適化できる点がQubenaの特徴です。タブレット端末に手書きされた文字の認識に優れているため、数学の作図問題やグラフを描く問題も学習できます。
Qubenaでは小中学校で学習する5教科の内容や、高校の数学・英語の内容を学ぶことが可能です。
学習者の理解度に合わせて最適な学習内容を提供するアダプティブラーニングは、EdTechの一種として注目を集めています。eラーニングなどと異なり、双方向にコミュニケーションを取りながら教育できる点がアダプティブラーニングの特徴です。
企業や学校でEdTechを取り入れ、教育効果を高めたい方は、アダプティブラーニングを導入してみてはいかがでしょうか。
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