DXエバンジェリスト公務員として、
職場改善のための学びを続け、
自身も周囲も日々成長

  • 30代
  • 地方公務員
  • 行政(一般事務)
  • Before

    職業 地方公務員

    役職 行政(一般事務)

  • After

    職業 地方公務員

    役職 行政(一般事務)

取材にご協力いただいた方 小形 貴志さん

佐賀県庁に勤める小形貴志さんは、職員の「働き方」をなんとかしたいと思いつつ、何もできずにもどかしく思っていたそうです。
ところが、IT部署へ異動になり、「デジタルでできることはいっぱいある」と気づくと、猛然と勉強をスタート。情報処理関係の資格を次々と取得すると、DXの推進役を務めるほどになりました。
「次はどんなDXを企んでみようか」と、ワクワクする毎日を過ごしています。

なんとかしたかった残業続きの職員の働き方

「『シン・ニホン』、異動、ステイホーム、そしてDX。それらがぴったりと重なったとき、『デジタルでできることはたくさんある』と気づきました」

佐賀県庁の職員、小形貴志さんが「働き方改革」に関心を持ったのは、30代になったばかりの頃だったそうです。

「自分自身残業で苦しみ、また夜中まで働いている仲間たちを見て『何とかしなきゃ』と思っていました。でも、何をどうすればいいのか……?」

モヤモヤした気持ちのまま過ごしていましたが、35歳になったときに、いくつかの出来事が重なり、突然、視界が開けました。

一つは書籍『シン・ニホン』(安宅和人著)を読んだこと。デジタル技術・人材により未来のあり方が大きく変わっていくことを知りました。

もう一つは、県庁の中でITシステムを統括する部門に異動になり、その後、コロナ禍によるステイホームの推奨により、勉強する時間ができたこと。

そしてもう一つ、総務省より「自治体DX推進計画」が出され、職場で「DX」が推進されつつあったこと。

「といっても、異動したての頃のIT知識はゼロ。システムの委託業者さんと打ち合わせをしても、用語がまったく理解できず、メモしておこうと思っても、聞き取れないありさまでした。さすがにヤバいと思い、ITパスポートから勉強を始めました」

県庁をあげてIT教育に力を入れていることも追い風になりました。忙しい仕事の合間に勉強した小形さんは、2021年にはITパスポートをはじめ、情報セキュリティマネジメント試験、基本情報技術者試験、応用情報技術者試験と立て続けに合格。2023年には、難関のプロジェクトマネージャ試験にも合格されました。

委託業者との打ち合わせにもまったく支障はなくなり、県庁内のIT投資の妥当性をチェックする担当も任されるほどになりました。自らノーコードツールを駆使して台帳管理を合理化するなど、着実に成果を上げるようになったのです。

また同時にIT人材育成の担当にもなり、周囲にも自らの学習方法をシェアするようになります。

「学習スケジュールの立て方やおすすめのテキストなど、勝手にメルマガのように送りつけました(笑)。そういう情報も熱心に見ている人には効果があったようです。私のようにIT経験ゼロなのに難関試験に合格した人もいます。その合格体験記も共有するようにしました」

通勤電車の中も、歩きながらもUdemyの講座を聞いて

「もともと私は〝資格マニア〟なんです。公務員試験を受けようとしたときから、そのための勉強だけではつらいので、気分転換に漢字検定を受けたり、日本史や数学、法学の検定を受けたり、多少なりとも公務員試験の勉強にもなるものをチョイスしていろいろやっていました」

勉強の気分転換に別の勉強を、という発想に驚かされますが、検定や資格は、目に見えるはっきりしたアウトプットであり、勉強を続けるモチベーション向上には大いに役立つそうです。

無事に公務員試験に合格し、県庁で働き始めてからも、小形さんは異動により新しい分野の勉強を始める必要があるときは、必ずその分野の検定や資格を探し、目標にするようにしました。

県庁内のイベントを学ぶ機会にしたこともあります。TOEICの点数を競う大会では、初めは685点だったのが、何度か試験を受けるたびに点数は上がり、最終的には1年弱で935点まで上がりました。

勉強は、当時、片道1時間ほどかかっていた通勤時間を利用しました。片手で持てるほどの参考書を購入して電車内で開き、付録のCDから音声をダウンロードしてスマホに入れて聞き続けました。土日には自宅の机で問題集を解きました。

IT部門に移って始めたITパスポートや各種情報技術者試験の勉強方法も基本的には同じです。TOEICのときと違っていたのは、Udemy Businessを利用できたことでした。自らが担当となって契約し、所属内の職員は自由に使えたのです。

「うっかりしてると、スマホでネットサーフィンをし始めてしまいます。そうならないよう、電車を待つホームに立っているときから、(スマホでUdemyの講座を)スタートするようにしました。『○○駅までの15分の間にはこれをしよう』と、あらかじめ決めておくことも続ける上で有効でした」

電車を降りて県庁へ向かう徒歩約20分の間も、視聴したばかりのUdemyの講座をイヤホンで聞きながら歩きました。一度映像で観たものの復習なので、倍速で聞いても頭に入ったそうです。県庁には始業時間よりも早めに登庁するようにし、自分のデスクで筆記や論文の勉強もしました。

ステイホームが推奨されていた時期はテレワークが多かったので、家でも時間を見つけて勉強するようにしました。ただ、スキマ時間に少しずつ学習を進めるほうがトータルでの勉強時間は多く確保できたそうです。

「仕事で疲れているときなど、思うように学習が進まない日ももちろんあります。そんなときは、動画を5分視聴するだけでも『前進している』と割り切るようにしました。StudyPlusというアプリを使って日々の勉強時間を記録して、『昨日(あるいは前の週)の自分を超えている』と自分で実感することも、モチベーションの維持に役立ちます」

学びで視界が開けるだけでなく、挑戦する心も生まれる

2023年、小形さんは県税事務所に異動になりました。実はこの部署、小形さんがIT部門の以前に在籍しており、タイミングのよいことに「職員の働き方をなんとかしたい」と考えていたところだったそうです。小形さんは希望して戻ってきたのです。

「止まっていた時間が動き出したようでした」

以前は「なんとかしなきゃ」と思いつつも、何をやればいいのか見当もつきませんでしたが、IT部門を経験し、勉強も続けてきたこのときの小形さんには、自分がやりたいこと、やるべきことが具体的にわかったそうです。

所長に進言して部署内に10人ほどのDX推進チームを作ると、IT部門時代の同僚に講師になってもらってさっそくツール活用研修を開催。デジタル化でやれることがたくさんあるとわかった職員たちは、自らアイディアを出し始めました。ノーコードツールで作成したフォームにより、各種書類の申請をオンラインでできるようにするなど、具体的な提案が数多く出ました。

「仕事の進め方にモヤモヤを抱えている職員は多い。その声をきちんと拾えるようにすれば、そのモヤモヤが原動力となって業務改善への大きなエネルギーが生まれます」

現在は、この取り組みを県内のほかの県税事務所にも拡大すべく日々奔走されているそうです。

小形さん自身は現在、EBPM(エビデンスに基づく政策立案)と、ITストラテジストの資格取得のための勉強をしています。

EBPMは客観的なデータをもとに周囲に説明するためのもので、ITストラテジストは経営戦略の視点を身につけるためのもの。いずれも県庁内のDXを進めるためには必要不可欠とのことです。

その他の情報処理技術者試験も、いずれは全13区分を取得したいと言います。

「知識がついて新しいことがわかっていくことは、視界が開けていくような体験です。次もやってみようか、もう少し難しいことをやってみようとかと、挑戦したくなります。この年齢になって学ぶことの楽しさに気づいてしまいました」

小形さんにとって「学び」はすっかり習慣づき、生活の中に定着したものです。

そして今、小形さんは学んだことを組織に還元することを自分に課して行動しています。

「DX推進チームもそうですが、時代に即した働き方に変えていくためには、ツールや業務改善の手法を各職員が腹落ちさせないとムーブメントは起こせません。自分もまだ学び続けますが、同時に周囲にDXを広めていく『エバンジェリスト』としての役割が求められていると、勝手に使命感を抱いています(笑)」

リスキリングの必要性が理解できても「目の前の仕事に追われて勉強が手につかない」という人たちのために、小形さんは今日も走り続けます。

「これだけ技術の進歩が速いのですから、1年前と同じやり方で仕事をしていることは、相対的に『後退』しているのと同じです」

「公務員は異動が多く、そのたびにまったく新しい仕事に就くようなものですが、だからこそリスキリング文化を県庁に根付かせたい」

そう冷静に指摘する一方、「今日はどんなDXを企んでみようかなと、毎日ワクワクしています」と、小形さんは朗らかに笑いながら語ってくれました。

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