誰かのためにもなるからこそ、
楽しく学べる

  • 30代
  • マネージャー
  • 正社員
  • Before

    職業 エンジニア

    役職 会社員

  • After

    職業 マネージャー、データサイエンティスト

    役職 会社員

取材にご協力いただいた方 太古無限さん

早くからAIの可能性に気づいて独学を開始。3人で始めた活動は大きく広がり、
現在、全社的なAI活用の浸透を図っているのが、ダイハツ工業の太古無限さんです。
プログラミング、データサイエンスなどの専門的な「学び」はもちろん、
MBA、リベラルアーツまで幅広く網羅し、
社内外にわたって教える活動にも熱心に取り組みます。
学ぶのは、自分のためであり、人のため。課題を見つけ、寄り添い、共に成果を上げていくことがうれしいと太古さんは語っています。

AIの活用を社内に広げようと、独学でAIを学ぶ

大学では理工学部の機械を専攻、2007年にダイハツ工業に入社し、主に小型車のエンジン開発・制御のエンジニアを務めてきた太古無限さん。

「エンジン開発には200年以上の歴史があります。当時は書籍を読んで理論を実験で確かめていく。そこから始めました」

快適な乗り心地を実現する、燃費を向上させる、排ガス規制を守るといった多様な要望に対して、エンジンをいかに制御するか――加速、減速、あらゆる状況下でデータを取って可視化し、最適なポイントを探っていきます。

「そこでAIを使えば、効率よく高精度に開発を進められるのではないだろうか」

太古さんが、AIを研究開発に役立てられるのではと考えたのが、入社10年目の2017年頃だったそうです。しかし当時、社内でAIを活用しようという動きは見当たりません。そこで、独学でAIについて学ぶことにしました。

「AIに関連する書籍を片っ端から買ってきては、内容をトレースするところから始めました。そのあとは自分でコードを書いて、たとえばエンジンのノッキング音のデータを機械学習させてベテランにしか聞き分けられない問題を見つけようとしたり、エンジンを制御する上での最適値を見つけ出そうとしたり、いろいろ試みていきました。やってみるとそれなりに成果は見られました」

自分の仕事へ活用することは当然ですが、太古さんがこだわったのが、「AIの活用を社内全体に広める」ことでした。その後、自分と同じようにAI活用を必須と考える社員とともに、3人でワーキンググループを結成。まずは、工場での活用を考えました。

「たとえば、人が目視検査しているところにAIを導入すれば、作業は楽になりますし、検査の精度も高まります」

課題を見つけ、AIでの解決を試み、実績を作っていきます。工場長の協力もあり、2カ月に一つのペースで活用事例ができていきました。

地道な活動は認められ、2019年、太古さんは会社の技術研究会の幹事に選ばれます。その一部門として「機械学習研究会」を発足させると、100人もの参加者が集まりました。事例発表会に社長や役員らも顔を見せるようになり、AI活用はまたたく間にメジャーになっていきます。

2020年4月、社内にAI活用の全社推進を担う「東京LABO」が新設され、太古さんはデータサイエンスグループのリーダーに選ばれます。同年12月には、人事部がAIスキルの教育体系を全社で展開し始めます。

太古さんが始めた小さな活動は、3年で全社的な取り組みになったのです。

社内全体の取り組みにできたのは、MBAで「戦略」と「組織」を学んだから

「実は、AIを始める前に経営学修士(MBA)の取得を目指していました。そこでいろいろな経営者に出会ったり、学んだりしたことで、社内で応用してみたいと、『AIを広げる』ことを実践したんです」

太古さんが「全社的なAI活用の浸透」を図ったのは、立命館大学のMBAで学んだ影響があります。

研究とは違う刺激を得るべく、週末に通い始めたのが2014年のことでした。初めは専門用語がわからず苦労したそうですが、やがて経営的な考え方が面白くなり、マーケティングでは好成績をあげました。

また、「戦略的な考え方」や「組織の作り方」は、後の「全社的なAI活用の浸透」の実践の上で大いに役立ちました。

社内にはプログラミングを日常的に使っているエンジニアもいれば、そうではない社員もたくさんいます。しかし、どんな人社員にとっても、AIを活用することによって仕事が楽になったり、高度な判断ができるようになるはずです。

そこで、社内で育成すべきAI人材を「素養人材」「中核人材」「TOP人材」と3段階に分け、知識がなくともAIが体験できる「啓発講座」や「easy道場」を入り口に、「基礎研修」「中級研修」と段階的に学べて、高度な手法やツールを操って課題解決を学ぶ「道場」まで教育体系を整えました。

また、「レゴで自動車を作ってプログラムで走らせたり、データ分析のコンペを開催したり、ゲーム性をもたせながら学ぶ方法を考えていきました」というように、楽しみながらAIに興味を持てるイベントも行うようにしました。

この間、太古さん自身も熱心に学んでいます。

2020年、太古さんが取ったのがG検定の資格です。翌2021年にはE資格も取得しました。いずれもAI・ディープラーニングを活用していくための資格です。

また、世界中の機械学習を学ぶ人のためのプラットフォーム、Kaggleにも登録・参加しました。機械学習が学べる多くのコースが用意され、コンペなどのイベントにも参加できます。

「社内にG検定を持つ人が増えれば、共通言語が増えて会話もしやすくなります。こんなことやってるんですよと(AI活用を)説明するときも、いい活動だねって言ってもらえるでしょう。偉い人たちが取ってくれれば、会社はもっと変わると思います」

G検定とE資格の取得や、Kaggleへの参加は、社内のAI人材育成の要件として位置づけました。どのような人材にどのようなスキルが求められるのかを、太古さん自ら体験することで練り上げたわけです。

目指すは「AIの民主化」。誰もがAIを使いこなし、成果を共有できる世界に

太古さんの「学び」は今も続いています。

2022年は、Udemy Businessを使って、プログラム言語のPythonをはじめ、BIツールのTableau(タブロー)を学びました。プレゼンテーションを学んだのは、社内外でAI活用の成果を発表する機会が増えたこと、また、滋賀大学や東京都市大学でインダストリアルアドバイザーとして講演する機会が増えたためです。

「1 on 1 ミーティング」は、部下との接し方を知るために学びました。また、社内の人間関係を考えて、書籍で、人の特性を知るストレングスファインダーも学びました。人の資質を34に分けて知ろうというものです。

2023年春からは、京都大学ELP(エグゼクティブ・リーダーシップ・プログラム)にも通い始めました。

「千利休の家系の方からお茶のお話を聞いたり、人間国宝の方から能の踊りを学んだり、生け花、医学界、宇宙飛行士……各業界の第一人者やトップの方たちの講義を受けました」

毎週土曜日、1年にわたって、リベラルアーツ全般を学ぶコースです。

「すぐに役立つ、というわけではありませんが、いつか学んだことを活かせる機会が必ずあるだろうと考えています。スティーブ・ジョブズのドット(点)じゃないですけど、学んだところ(点)は、将来、何かしらつながって(線になって)役立つはずです。

学ぶことで自分も幸せになりたいですし、ほかの人が幸せになってくれればいいなと思っています。学びたい人は自分で学んでいくでしょうが、そうでない人にもやる気スイッチが入るようなきっかけを作ることができれば」

課題を見つけ、解決していく。仕事を楽に楽しいものに、そして幸せに。

太古さんにとっては、AIの活用を浸透させることと、自分が学んだり、他人に学びを勧めることは、同じ線上にあるようです。

2023年1月、ダイハツ工業は「DXビジョンハウス」を発表しました。社会課題の解決のため、同社では2025年度までにデジタル技術が活用できる「DXビジネス人材」1000名を育成して全部署に配置し、最終的には全社員をDXビジネス人材化していくというものです。

太古さんが目指しているのは、「AIの民主化」です。限られた人間だけでなく、誰もがAIやデータを使い、成果や事例をお互いに活用しあえる世界です。AI、プログラミング、データサイエンス、MBA……太古さんが学んできた成果が、大きな実となって形作られようとしています。

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