学びがくれる「楽しさ」を糧に、
「おかんDX」で困った人を助けたい

  • 40代
  • ITコンサルタント
  • 経営者
  • Before

    職業 営業

    役職 会社員

  • After

    職業 DX支援

    役職 個人事業主

取材にご協力いただいた方 戸田和子さん

こんなに難しいことが世の中にあるなんて。
デジタル、AI、プログラミング……経産省や東大の講座に度胸で飛び込み、 書籍やYouTubeなど利用できるものは何でも利用して、 学び続けたのが戸田和子さんです。
何度挫折しても立ち上がり、行き着いたのは、 「少人数の小さな職場にこそDXが必要」という確信でした。

いくつもの挫折を乗り越えて、DXのスキルを自分のものに

大学では英語を専攻し、卒業後は外資系の海運会社で正社員として17年間勤めていた戸田和子さん。TOEICは930点。その英語力で、海外の顧客とやりとりする毎日を過ごし、2016年に退職しました。

「『手に職を』と思い、職業訓練校でプログラミングを学びましたが、難しすぎて……」

前職では短期間ながらITサポート部門にいたこともあり、システムで仕事が便利になることを体感していました。プログラミングを学ぼうと思ったのはそんな経験からでしたが、

エンジニアになるまでの道のりは、遠くて手が届かないように思えたそうです。

職業訓練を終了後、IT企業でパートとして働きましたがコロナ禍に退職。その後はフリーランスとしてWebサイト制作や翻訳・通訳などの仕事に携わっていくのですが、常に仕事の不安定さと「扶養の壁」を感じていました。そこで、仕事の幅を広げたいと考えていたときに、「DX」というワードが耳に入ってくることが多くなりました。「DX」とは「デジタル・トランスフォーメーション」の略で、デジタル技術を用いながら仕事の効率化や顧客体験の向上を目指す取り組みのことです。

「世の中には便利なデジタルツールがたくさんあります。そういったツールを活用することも『DX』だということを読んで、これならできるかもしれないと思いました」

エンジニアとは違う立場でも、顧客のDXを推し進める仕事ができるのでは。戸田さんはシステムの利便性を理解しつつも使いこなせず、業務がうまく回らないところがたくさんあるはずと考えました。日常的な業務にこそ、DXが必要だという確信を深め、改めてDXについて学ぶことにしました。

戸田さんは、フリーランスのコミュニティの知人から『マナビDX Quest』という経済産業省が主催するDX人材育成プログラムがあることを知りました。2022年のことです。

かなりハードな学習プログラムという噂を耳にして、少し躊躇はしたものの、持ち前の度胸で参加したそうです。

各自オンライン講座でAI実装のプログラミングなどを学び、その学びを駆使してほかの参加者と共に架空の企業事例に取り組みます。戸田さんが挑んだのは、データを用いて小売店の需要予測をするものでした。

「Pythonでコードを書いてAIでデータを分析、予測させます。初心者向けにはサンプルコードがちゃんと用意されていて、それで何かしらの答えは出せるものの、実はそこからAIの種類を選択したり、入力するデータをきれいに整えたりして、予測精度を上げていくんです。ほかの人はコンペ形式でどんどん進めていくんですが、私は全然太刀打ちできず、キョトンとするばかりでした」

なんという世界に来てしまったのだろうと思ったそうです。

「でも、仲間に助けられました。オンライン上にコミュニケーションのスペースやバーチャルオフィスみたいなものができて、質問したら答えてくれたり、顔なじみもできましたね」

なんとかこなしたものの完全に理解できず、悔しい気持ちは残りました。そこで、戸田さんは東京大学の松尾豊教授による社会人向けのAI講座を受講し、さらに翌年度の『マナビDX Quest』をもう一度受講し、DXのスキルを自分のものにしていきます。

「ほかの受講生はほとんどが会社員で、仕事で活かせる場も何かしら持っていたと思います。でも、当時、私は一主婦に過ぎませんでした。でも、だからこそ、主婦のお遊びでやってるみたいに終わらせたくなかったんです。ただのおばちゃんでもできるって示したかったんです」

就職はかなわず、ならばフリーランスで「おかんDX」の浸透を

大変な努力をしてDXのスキルを身につけました。英語のスキルもあります。戸田さんは就職活動を始めました。きっとどこかが採用してくれるはず。しかし現実は厳しいものでした。

「10社近く受けたでしょうか。どこも書類さえ通りません。こんなに学んだのにって、かなりショックでしたね。やっぱり年齢が原因でしょうか。20代、30代だったらリスキリングで転職して年収もアップ、いろいろなプロジェクトに関われて……なんて想像してしまいました」

でも、ここで腐っちゃいけない。戸田さんは思い直しました。

DXを本格的に学んだおかげで、自分の身の回りにDXを必要としている人がたくさんいることに気づいたのです。その中でもDXを本当に必要としているのは、中小零細企業のごく少人数の職場だと確信するようになっていました。

戸田さんは、フリーランスとしてDXを進めることにしました。名付けて「おかんDX」--おばちゃんが推進するDXです。

「たとえば、給与計算のために勤怠管理のタイムレコーダーの記録をExcelに打ち込んで、足したり引いたり、15分を切り上げたり、一所懸命、計算しているところはけっこうあります。しかもExcelを使っているのに、なぜか電卓で検算していたり……」

そんな職場では、戸田さんがExcelの表を持ち帰り、丸1日かけて関数を整え、一度打ち込めば関連項目にも反映して、一瞬で計算が済むように改良します。

「でも、Excelを改善したところで、根本的な解決にはなりません」

DXとは業務の流れを見直し、合理化、効率化することです。

そこで戸田さんは、新たに勤怠管理アプリの導入を提案します。スマホやICカードでタッチするだけで記録が残り、すべて自動集計してくれるシステムです。すでに世の中には多くのアプリがあります。その中から職場の規模や使い方に合っているものを選び、紹介するのです。

「それでも進まない場合がほとんどです。あるところでは、1週間後に再び訪ねてみると、『やっぱり面倒だからやめたい』と言われたこともあります。新しい人を登録するところでつまずいたんですね。ちょっと入力が漏れていただけだったので、やり直したら解決しました。『もう少しで挫折するところだった』と言われました。そういうところは山ほどあるんです」

年齢や性別、置かれている状況に関係なく、誰でもなりたい姿に

勤怠管理、見積書作成、商品の受発注、会計、顧客管理……。Excelを駆使して仕事をしている職場は数多くありますが、今では便利なアプリがあり、それを使えば大幅な合理化が可能です。「おかんDX」では、そのような毎日の作業を見直し、デジタルツールで業務を効率化するのをサポートします。

まだ始めたばかりでクライアントは数件ですが、少し進めるだけでも、多くのニーズが埋もれていると言います。

「とはいえ、DXと聞いて、なんだか難しそう、面倒くさそう、ウチにはムリムリ、関係ない、そう思っているところがほとんどなんですよね」

そこで戸田さんはネットラジオのstand.fmでラジオ配信も始めました。その名も『おかんDXチャンネル』。上記のようなごく身近なDXの例がたくさん出てきますが、戸田さんが特に主張するのが、「大事なことは、デジタル化ではなく、変えること」です。

「おかんDX」をより多くの人に知ってほしいと、戸田さんは「ビジネスプラン発表会 LED関西(2023年)」(公益財団法人大阪産業局)にも応募しました。

戸田さんは385人の応募者の中から10人のファイナリストに選出され、さらに数社の企業から事業拡大に向けてのサポートを得られました。

その発表会で戸田さんは次のように言っています。

「人の年齢や性別、置かれてる状況にかかわらず、また企業も大小にかかわらず、なりたい姿を描いてアクションを起こせば、誰でもなりたい姿に変わっていける。そんな社会を作りたいですね」

戸田さんの「学び」は今も続いています。

この数年でMicrosoftのクラウド、AI、ノーコードツールに関する認定資格をいくつか取り、ごく最近も日本ディープラーニング協会によるG検定、ITパスポートなどの資格を取りました。

「G検定を取るのに、確率統計や微分積分の知識も必要なんです。数学なんて高1で捨てたつもりでしたが、YouTubeで神みたいにわかりやすく説明してくれる人を見つけました。断然面白いですし、何の役に立つのかも改めてわかりました」

「わかるって楽しい」が、戸田さんにとって、この数年間、学んできたことの一番の気づきだそうです。学んだことを活かして、「DXって何?」というような人にも、デジタルを使って仕事が面白くなるサポートをしようと邁進中です。

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